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町立の日本語学校モデルとは?――三宅良昌校長が描く町の将来――(第3回)
- 2018/3/26
- 日本語教育と地方創生
- 三宅良昌, 公立日本語学校, 地方創生, 東川町
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町立の日本語学校モデルとは?――三宅良昌校長が描く町の将来――(第3回)
[初級コースのクラスでは、終始なごやかに授業がすすむ。中央が三宅校長]
「オリンピックが終わったら日本語ブームが終わりではない」「日本語学校は短期的な利益を追求するのではなく、10年・20年と続く前提で考えなければならない」自信を持ってこう発言するのは、東川町立東川日本語学校の三宅良昌校長だ。三宅校長は元国語教師。高等学校の国語科教諭を経て二校の高校で校長を経験。2003~2008年には東川町の教育長を務めたベテランだ。
まだ雪がちらつく2月8日に東川町立東川日本語学校を訪問し、三宅校長に話しを聞いた。
東川町立東川日本語学校は、2015年10月に全国で初となる公立日本語学校として設立された。1985年より写真の町として国内外に開かれた町をつくってきた。2009年に韓国の中高生33名を受け入れ、東川町短期日本語・日本文化研修事業をスタートさせてきた。町として長期の留学生に日本語を教える日本語学校の設立は自然な発想であったようだ。
短期日本語研修では3か月以内の期間で9歳から70歳までの学生が学ぶ。町立日本語学校の役割は、町の未来への投資だという。日本語学校に来る留学生に楽しく勉強してもらい、良い気持ちで帰ってもらうことに注力をしているそうだ。なぜなら町のファンを増やすことが、将来の観光客の誘致やリピート客、次の学生の獲得につながることを長年の取り組みから、経験的に理解をしているからだ。
それだけではない。町立日本語学校を設立したのも、短期だけでは町の良さがわからない。ぜひ長期滞在をしていただき、日本語能力をきちんと身につけるとともに、年間を通した町の生活を経験してほしいとの想いがあったのだ。
東川日本語学校は、小学校の旧校舎を改装した東川町文化芸術交流センター内につくられた。小学校の教室をそのまま活用した開放的な空間で留学生は学ぶ。募集定員は1年コースが40名、6か月コースが40名、町内の学生寮で寝食を共にする。1日の授業は45分1コマの4時間制。午後には自習・試験対策のほか、豊富に用意された地域住民の主催する日本文化学習を選択して参加する。午後の自習時間を多くとるため、短期間での日本語能力向上が可能なのだそうだ。事実、日本語能力検定試験(JLPT)受験者の合格率は非常に高い水準で推移しているという。
[小学校旧校舎を改装した東川町文化芸術交流センターには地元出身の芸術家の作品が展示されている]
[校舎内に併設されている食堂はNPOが運営。町で採れた食材を活用している]
日本文化授業の時間では、茶道や日本舞踊などの文化体験や、東川町の特色である木工や陶芸、写真などの体験学習、大雪山国立公園の麓ならではの自然体験、近隣の動物園や科学館、美術館の見学、研修旅行として北海道の人気観光地を巡るなど、様々な活動が用意されている。
また、同様に1~3か月の短期日本語研修も継続しており、こちらは年間で多いときは300名弱の研修生に日本語を指導する。日本語指導のほか、文化体験や自然体験もプログラムに組み込まれており、町のファンを増やす仕組みが整っている。
日本語教師は元小学校教諭も多く、常勤が6名、非常勤が19名、課外活動専門のスタッフが1名の26名体制で指導にあたっている。
「この町で日本語を勉強してもらうことは、この町が活性化するという意味です。この町に来たら幸せが共有できる。それが東川町です」と三宅校長は熱心に語る。昔から東川町は外に開かれた町づくりをしてきており「小地球村」という発想を持ってきたのだそうだ。短期的な経済効果は二の次で、大切なのは日本の良さを東川町として伝えるということなのだそうだ。
その特色は留学生募集にもあらわれている。「地方の田舎の町立学校に来てくださいではなく、選んで来ていただく」という発想のもと、留学生募集のエージェントに、町の方針や理解をしていただいた方を紹介してもらうのだそうだ。現在は5か国にわたる企業または個人に海外事務所を委託し、勝手のわかったパートナーとして、町の特徴を伝えている。
三宅校長は、町の長期的な考え方を理解している町民はそれほど多くはないという。だが、地域の住民で留学生に対して世話好きな人たちが何人もいて、言葉では理解できなくても、話しかけたり、かまったりして、行動で触れ合えているのだそうだ。このような「住人と留学生とのふれあいが、本当の日本理解につながると思う」と結んだ。
<第4回:町立日本語学校のソロバン勘定――やり繰り上手なお役所仕事―― につづく>
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特集:日本語教育と地方創生
人口減少が急速に進む地方都市において、日本語学校を地域の活性化に結びつけている町があるのをご存じだろうか。北海道旭川空港から東に車で15分の東川町だ。2015年10月、日本初の公立日本語学校を開校し、町をあげて外国人留学生を歓迎している。「偽装留学生」や「デカセギ留学生」などと揶揄されることが多い昨今、地方の公設の日本語学校がどのように留学生と付き合っているのか。雪深い町立東川日本語学校を訪ね、その実情を通して、日本語教育と地方創生の可能性について考えてみた。