政府の「留学生30万人計画」達成へ――大学淘汰の時代に、次なる政府の計画は?

政府の「留学生30万人計画」達成へ――大学淘汰の時代に、次なる政府の計画は?

政府が2020年に達成を目指す「留学生30万人計画」がまもなくゴールを迎えそうだ。日本学生支援機構(JASSO)の調べでは2017年5月現在の留学生数は26万7042人。前年比で約2万4000人増えた。「30万人」の達成は時間の問題だ。留学生の増加に伴って、労働者としての留学生(資格外活動)が、5年前に比べて2.5倍に急増した。一方で日本人の18歳人口の減少に伴う「2018年問題」が取り沙汰され、大学は淘汰の時代を迎えそうだ。留学生の「需要増」が見込まれる中、政府は新たに「留学生40万人計画」など数値目標を掲げるのかどうか。

留学生数は、法務省入管局が在留資格の「留学」を集計した数字もあり、こちらの方は29万1164人(2017年6月末)。ほぼ30万人だ。JASSO調べは大学など教育機関の在籍者数を積み上げており、より実数に近いとみられる。2万人ずつ2年間増えれば、2019年に目標の30万人を突破する可能性が大きい。

JASSOの調査によると、留学生数の内訳は大学7万7546人(7.4%増)▽大学院4万6373人(6.7%増)▽専門学校5万8771人(17.0%増)▽日本語学校7万8658人(15.4%増)など。いずれも増加しているが、専門学校と日本語学校の伸びが著しい。東日本大震災の翌年の2012年は原発事故の影響もあり16万1848人に減少したが、その後は大きな伸びをみせている。

留学生は、週28時間の範囲で資格外活動として働くことが可能だが、厚生労働省によると、2017年10月末の資格外活動の人数は統計上、JASSOの数字より多い29万7012人で、外国人労働者数127万8670人の約23%を占める。2012年の10万8492人から5年間で3倍近くまで増えている。技能実習や専門的・技術的分野を上回り、貴重な労働力となっていることがわかる。

大学の状況をみると、18歳人口は団塊の世代が18歳を迎えた1966年の249万人がピーク。その後、減少傾向が続くが、団塊ジュニアが高校を卒業した1992年には増加に転じ205万人にまで増えた。しかし、以後は減少の一途で、2014年には118万人にまで減少した。さらに「日本の高等教育の転機になる1年」とされている2018年には、再び18歳人口が減少を始める。2031年にはその数が99万人と100万人を下回る見通しだ。

帝国データバンクが私立大学の498法人を対象に行った2014~2016年度の経営状況の調査では、2016年度に減収だったのは209法人(44.6%)あった。3期連続減収は80法人(17.5%)、2期連続減収は52法人(11.4%)。3期連続赤字は84法人(19.9%)にのぼり、私立大学の約4割が定員割れというデータを突き合わせてみれば、厳しい経営環境の大学が少なくないことがわかる。大学は淘汰の時代を迎えるとみられる。

大学にとっても人手不足の企業にとっても、すでに留学生は救世主のような存在だ。この先も高度人材のタマゴとして、また貴重な労働力として、さらに重視されることなりそうだ。日本人の18歳人口の減少に反比例するように留学生が増加することが予想される。

留学生30人計画は福田内閣が2008年に「日本が世界に開かれた国として人の流れを拡大する」ことを目指して策定された。計画は2019年にも達成される可能性が大きい。政府は目標が達成されたことで留学生受け入れを抑制するのか、それとも需要の増大を踏まえて、新たに「留学生40万人計画」など策定し、受け入れ拡大の路線をとるのか。

ただし、課題となるのは、「留学生のレベル」だ。勉学より労働に力を入れる「出稼ぎ留学生」の問題がある。最近、急増しているベトナムやネパールなどの非漢字圏の留学生は、中国、韓国などの留学生に比べて日本語の習得に時間がかかる。日本語学校で2年勉強するだけでは十分な日本語能力が身につかず、専門学校などでも日本語教育を受けるケースが増えているという。

留学生などグローバル人材の育成には、中長期的な戦略が必要だ。ベトナムでは昨年、小学校3年から日本語を第一外国語にする取り組みが始まった。この制度が定着し、一定の日本語能力を身に付けた若者層が増えれば、より優秀な学生が日本に留学してくる。そうした取り組みが「日本語人口」の増大につながるはずだ。

留学生の受け入れも、国際競争が激化している。欧米に比べ、日本はより魅力的な留学政策をとることが必要だ。他国より急テンポで人口減少が進む中で、政府は成長を続けるアジアの活力を取り込むべきだという。そのためのグローバル人材の育成にとって欠かすことができないのが日本語教育だ。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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