災害時の外国人への情報提供 改めて「やさしい日本語」を考える
- 2018/9/27
- 時代のことば
- やさしい日本語
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災害時の外国人への情報提供 改めて「やさしい日本語」を考える
日本経済新聞は9月25日の社説で「災害時は外国人にもきめの細かい情報を」と訴えた。北海道や関西での相次ぐ災害を踏まえ、外国人のための防災対策を強化するよう呼びかけた。「外国人受け入れ」に熱心な日経新聞らしい「気配り」を感じさせる社説だ。ただ、触れてほしかったことが一つある。防災のための「やさしい日本語」だ。
社説は「自治体の防災無線やニュースの字幕など、緊急時の災害情報は主に日本語で提供されている。外国人の多くは地震や津波の知識も乏しい。震度の数字や地名だけでは災害の全体像は理解しづらく、不安やデマを生みかねない」と注意を喚起する。まさにその通りだと思う。いまの対応策で十分ではないのは明らかだ。
また、社説では観光庁が東日本大震災を体験した外国人に聞き取りをした情報を紹介する。「日本国内のサイトより母国のメディアや交流サイト(SNS)に頼っていたことがわかった」というのだ。そのうえで「日本の出先機関が各国で積極的に正確な情報を流すのも手だろう」と提案する。「日本の出先機関」とは在外公館か政府系機関の海外事務所を指すと想像するが、政府がそこまで問題意識を持つことができれば、効果があるに違いない。
さらに、こんなアドバイスもしている。自治体国際化協会(クレア)がネットで公開している「災害時多言語情報作成ツール」の活用だ。総務省の外郭団体のクレアは自治体の国際交流協会などの団体とつながっている。「ツール」はトイレ、充電、医療などに関する注意書きを多言語で紹介している。これを民泊業者などがダウンロードして事前に印刷しておけば、いざという時に外国人に手渡しするだけで必要最小限の危機管理に関する情報を提供できるという。
こうした多様な情報提供が外国人観光客にとって、親切な対応であることは間違いない。それは従来の観光サービス以上のものだ。社説が主張するような「きめ細かい情報」を実際に提供できれば、外国人観光客に「安心・安全」の日本側の気配りが伝わるだろう。
社説としては問題意識が明確であり、提案も具体的だ。にもかかわらず、あえて「やさしい日本語」に言及して欲しかったというのは、在留外国人にとって防災・減災に大きく役立つからだ。バイリンガルの在留外国人に情報が伝われば、彼らから母国語で必要な情報が広がる可能性もある。
防災・減災にやさしい日本語は、1995年の阪神大震災をきっかけに研究が始まった。阪神大震災では在留外国人の死傷者の割合が日本人より多かった。どうしてか。避難、誘導、救済措置などの情報が通常の日本語では在留外国人に十分理解されなかったからだ。そうした反省をもとに分かりにくい防災情報を「やさしい日本語」に置き換える取り組みが始まった。それを主導し普及に尽力する弘前大学の佐藤和之教授は消防庁から表彰も受けている。一部の消防署や自治体では職員研修も始まっている。NHKは「NEWS WEB EASY」というサイトを創設し、在留外国人向けに「やさしい日本語」の情報発信を行っている。
「やさしい日本語」には、波及効果が期待できる。在留外国人の260万人を超えたが、彼らに日本国内の情報を母国語で伝えるエスニックメデァイが数多くある。10年ほど前には外国語の新聞、雑誌、インタネットラジオなどが200もあったと聞いている。エスニックメディアの担当者はバイリンガルだ。彼らにも「やさしい日本語」の方は親切だ。きめの細かい情報を伝え、翻訳してもらい母国語で情報発信してもらえば、在留外国人にも外国人観光客にも必要な情報が伝わる可能性が大きい。
外務省には「フォーリンプレスセンター」という関係組織がある。海外に本社を置く海外メディアの日本特派員に情報を発信する場だ。数年前、日本国内のエスニックメディアの記者をオブザーバー参加させるようになったという。海外のメデァイも重要だが、身近な海外メディアへの情報発信も重要なずだ。エスニックメディアは日本の文化や慣習も知っているし、社会情勢に関する情報も持っている。
地震や風水害は日本を避けて通ってくれない。そのための備えは万全であるべきだ。日本は観光の面でもなお、「安心・安全」がウリである。これは日本人にとっても、手放すわけにはいかない重要な「価値」だ。では、どうすればいいのか。日経新聞の社説がそれをほとんど語っている。それに付け加えたいのが「やさしい日本語」だ。
石原 進