労働力不足はまずは農業分野で「特区」と「特定活動」で外国人労働者受け入れに対応

 

◎労働力不足はまずは農業分野で「特区」と「特定活動」で外国人労働者受け入れに対応。

自民党の特命委員長の木村議員が講演で「コペルニクス的転回」と強調

自民党政務調査会の労働力確保に関する特命委員会の木村義雄委員長(参院議員)が18日、都内で開いた多文化社会研究会主催の多文化フォーラム(講演とパネルディスカッション)で、農業分野の外国人受け入れについて、零細中小農家が実施している技能実習制度を維持するとしながらも、農業特区を活用し新たな受け入れ策として特定活動の中に農業を加える考えを示した。特定活動は法務大臣の判断で職種を増やすことが可能で、木村氏は介護などにも広げる考えにも言及した。政府は今後の労働力確保の在り方について、国際的に「人身売買だ」などと批判を浴びている技能実習制度から、特定活動に大きく舵を切る可能性が出てきた。

同特命委は昨年5月に「『共生の時代』に向けた外国人労働者受け入れの基本的考え方」という文書を作成した。この基本的な考え方に沿った形で特命委は法務省、厚生労働省、農林水産省などと協議し、政府・与党は今国会で国家戦略特区に限って外国人の農業分野への就労を認める特区法を改正する方針だ。

基本的な考え方は、「移民」という言葉について、「入国の時点でいわゆる永住権を有する者で、在留資格による受け入れは移民に当たらない」と新たな定義を提唱した。その定義に従えば、「移民」は日系3世までのブラジル人など限られる。それ以外は移民に当たらないという解釈だ。移民受け入れに慎重な安倍内閣の方針にぎりぎり配慮した判断と言える。

また、政府が雇用対策基本計画の中で外国人の入国を規制する方策として用いられてきた「いわゆる単純労働者」については、「明確な定義がない」として政府が使う用語としては不適切だとした。そもそも在留資格を「単純労働者」と「高度人材」という概念で区分してきたことが問題だ。農業など一次産業は「単純労働」に区分されるわけで、職業に貴賤はないといいながら、政府、労働組合、マスメディア、さらには研究者も含め、50年間もこのような無神経な言葉遣いを容認してきたわけだ。

木村氏は内部の議論の過程で政府側が「単純労働」の具体的な事例について「包装」「運搬」「清掃」を挙げたエピソードを紹介。役人がイメージのみで三つの職種を軽視したことを厳しく批判した。この用語の使用を不適切だと断じたことを含め、政治主導で作成した特命委の「基本的考え方」について、木村氏は「(外国人が)堂々と表から入っていただける提言」「コペルニクス的転回の中身となっている文書」と自賛した。

また、木村氏は海外の大手マスメディから自身に取材が相次いでいることを明らかにし、日本政府が過去に例のないような急テンポで進む人口減少に対し、どのように対応しようとしているか、国際的に大きな関心を集めていると述べた。外国人労働者を適正に受け入れなければ日本の経済は落ち込む一方で、その政策いかんによって日本が「売りか買いか」の判断材料になる、というわけだ。国際投資家が日本を「売り」と判断した場合は、株価が大きく下落し、経済は低迷し、日本はそれこそ「落日の国」になってしまうということだ。

講演のあとは、会場からの質疑と、多文化研理事長の川村千鶴子大東文化大名誉教授をコーディネーターに、木村氏に加えて佐藤由利子東工大名誉教授、明石純一筑波大准教授によるパネルディスカッションが行われた。

この中で佐藤准教授は106万人を数える外国人労働者の内訳などを説明したあと、①外国人と日本人のコミュケーションのとり方②トラブルが起きた場合の相談窓口の開設③地方自治体の負担とその支援策――について質問。また、明石准教授は「もったいない」をキーワードに技能実習制度に関わる申請時の莫大なコスト負担のほか、3年しか働けずに帰国せざるを得ない現行の制度では、韓国や台湾に人材獲得競争に勝てないと主張。また、将来の永住や就職などのインセンティブを与えていないことで働き手としてのスキルの向上や意欲がそがれていると指摘した。

これに対し木村氏は、基本的な考え方をベースに農業分野における技能実習制度の在り方について説明し、①特定活動による労働者の受け入れは大手の人材会社に仲介させることで様々な問題解決はその会社に責任を持たせる②技能実習制度で来日し、3年間勤めた後、優秀なスキルを持った外国人が希望すれば特定活動のビザで引き続き働くことができるようにする③農業特区では季節によって労働需要が変わるので仕事を移動できる季節労働を想定している――などと述べた。

また、木村議員は技能実習制度に関して監視機構を発足させることに関連して、「外国人雇用庁に向かっていくような一歩として作らせた」と語り、将来の外国人労働者の受け入れの窓口一元化をにらんだ組織再編であるとの考えを明らかにした。(了)

【解説】鎖国の扉を開けた木村ペーパー
木村義雄氏は、自身がリーダーシップをとって作成した「基本的考え方」を「コペルニクス的転回」と称した。木村ペーパーともいえるこの文書が明らかになった時、マスコミがこぞって大きく報じたという記憶はない。しかし、木村氏の講演での自画自賛はあながち過度な自己PRではない。一つは全くの官僚主導の外国人受け入れの政策を政治主導に導いたこと。もう一つは政府の「鎖国政策」の扉をこじ開けたことだ。

政府は「外国から高度人材は積極的に受け入れるが、いわゆる単純労働者の受け入れは慎重であるべきだ」との方針を半世紀も堅持してきた。しかも法律で決めたわけでない。厚生労働省の方針である「雇用対策基本計画」を閣議決定することで「しばり」をかけてきたのだ。その方針は、高度人材を受け入れるというより、単純労働者は受け入れないことに大きなウエートが置かれていた。基本的には「いわゆる鎖国政策」をとってきたのだ。だからこそ、木村氏が言うように外国メディアはそこに注目している。

しかし、政府と同じ目線でしか取材をしない日本のメディアには何のことがわからないのだ。政府が「移民」という言葉を使わないから大手メディアも移民というと腰が引けてしまう。その意味では九州のブロック紙である西日本新聞社が昨年12月から「新 移民時代」と題した長期連載を掲載していることは注目に値する。正面から「移民」というワーディングをタイトルに据えたのは英断だ。地方都市では、人口減少による経済の疲弊は想像以上に深刻なのだ。

木村ペーパーが作成されたように、政治の世界で人口減少に危機意識が深まっているのは事実だ。自民党政務調査会の特命委員会で方針を打ち出したことは、政府に対して大きな影響力を発揮できる。自民党1億総活躍推進本部の誰もが活躍する社会をつくるプロジェクトチームが留学生受け入れ等の管理や規制緩和などの提言をまとめている。さらには、超党派の日本語教育推進議員連盟が昨年11月に発足した意味も極めて大きい。外国人に対する日本語教育はグローバル時代にあって、最重要のインフラ整備だ。こちらの動きにも期待したい。

木村氏は講演で農業分野に外国人受け入れに関して「農林の方から(日本語能力試験の)N4でどうかと。おまえら馬鹿じゃないか。牛や豚が日本語をしゃべるか」と冗談めかした「秘話」を披露したが、一方で「最低限の日本語ができるようにする」とも明言した。

日本語教育は、留学生が大学や専門学校に進学するための教育メソッドが主流だったが、「やさしい日本語を」含め多種多様な日本語教育が求められている。「人口減との戦い」の波紋が広がっている。

 

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
1月
31
10:00 AM 令和6年度生活指導担当者(初任)研修 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度生活指導担当者(初任)研修 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
1月 31 @ 10:00 AM – 5:30 PM
当協会では、日本語教育機関における生活指導担当者の能力向上を図るため、標記研修を実施しております。 今年度におきましても下記により実施しますのでご案内申し上げます。 「認定日本語教育機関に求められる外国人留学生の生活指導支援とは」をテーマに講義とグループワーク及び懇親交流ネットワーク会(任意参加))の三部構成としました。 日頃の業務課題の解決・モチベーションアップに、ぜひご活用ください。 1 日時 令和7年1月31日(金)10:00~17:30 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加要件 日本語教育機関又は大学等教育機関の現場において、 実際に留学生の生活指導に携わり、原則 3 年以内の者。 4 参加費 維持会員機関 8,800円(税込)/1人当たり その他の教育機関  17,600円(税込)/1人当たり 5 応募締切:令和7年1月10日(金) 6 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3245&f=news 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com
2月
15
10:00 AM 令和6年度 国際化市⺠フォーラム ... @ オンライン(ZOOM)
令和6年度 国際化市⺠フォーラム ... @ オンライン(ZOOM)
2月 15 @ 10:00 AM – 5:00 PM
今年度も国際化市⺠フォーラム in TOKYOを開催します︕ これまで15年以上にわたり例年2⽉に開催しているイベントです。今年度のテーマは「東京がめざす多文化共生、一歩先へ」です。 2024年10月、都内の外国人住民は約70万人、人口の4.9%を超えました。外国につながる人々も含めると、その総数は計り知れません。私たちの身の回りでは、多くの外国人が日本社会の一員として生活し、活躍しています。災害対応や子どもの教育など、在住外国人を取り巻く課題は、日本社会の課題でもあります。今年度の国際化市民フォーラム in TOKYOは、個々のテーマに焦点を当てながら、東京にふさわしい多文化共生の姿について、皆さんと一緒に考えます。 どなたでもお申し込みいただけますので、ぜひご参加ください。 ●開催日時 2025年2月15日(土) 【A分科会】10:00~12:30 【B分科会】14:30~17:00 【C分科会】14:30~16:30 ●開催方法 オンライン(ZOOM) ●定員   各分科会 250名 ●詳細・申込  https://tabunka.tokyo-tsunagari.or.jp/forum/apply.html 締切:2025年2月9日(日) ※定員となり次第、締め切らせていただきます。 ●参加費   無料 ●問い合わせ 公益財団法人東京都つながり創生財団 多文化共生課 メール:forum@tokyo-tsunagari.or.jp TEL:03-6258-1237 ●各分科会内容 【A分科会】 市民が支える多文化コミュニケーション ~コミュニティ通訳の役割と地域市民ができること~ <司会進行> 松井 和久 氏  独立行政法人国際協力機構 東京センター 市民参加協力第一課 <基調講演> 飯田 奈美子 氏 立命館大学衣笠総合研究機構 専門研究員 <パネリスト> 杉田 理恵 氏 (一社) 多文化社会専門職機構 認定事業 相談通訳者認定者 高田 友佳子 氏 特定非営利活動法人 国際活動市民中心 コーディネーター/クリニカルソーシャルワーカー 藤原 紀子 氏  特定非営利活動法人 たちかわ多文化共生センター 登録語学ボランティア 【B分科会】 外国につながる子どもたちが活躍できる東京を目指して ~小中学校の学びが未来を拓く~ <司会進行> 岩野 英子氏、小野 千穂 氏、古川 美由紀 氏 西東京市多文化キッズサロンコーディネーター <事例発表> 青山 弘子 氏  江戸川区立小岩小学校日本語学級 主任教諭 田中 阿貴 氏  港区立六本木中学校日本語学級 主任教諭 中村 夏帆 氏  岩倉市立南部中学校 教諭(日本語担当) 我彦 有希子 氏 八王子市立南大沢小学校日本語学級 主任教諭 【C分科会】 多文化共生と防災 ~災害に備える共助の力~ <司会進行> 源 亮子 氏 独立行政法人国際協力機構 東京センター 市民参加協力第一課 <基調講演> 楊 梓 氏  阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター リサーチフェロー <事例発表> 奥田 裕 氏、長尾 薫 氏 東京都住宅供給公社 公社住宅事業部 公社管理課 柏村 貴也 氏 中野区 総務部 防災危機管理課 田島 実恵 氏 中野区国際交流協会 姜 秀英 氏  中野区外国人防災リーダー 主催:国際交流・協力TOKYO連絡会、公益財団法人東京都つながり創生財団 共催:東京都 後援:独立行政法人国際協力機構(JICA)、一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR) ※国際交流・協力TOKYO連絡会とは、都内の国際交流協会や外国人支援団体等が加盟するネットワークで、(公財)東京都つながり創生財団が事務局を務めております。 ◆開催までの企画・運営の様子をまとめた「市民フォーラム準備レポート」もご覧ください。 https://tabunka.tokyo-tsunagari.or.jp/log/shiminforum/ ◆本件は、東京都多文化共生ポータルサイトSNSでも情報発信しております。 ご興味のある方がいらっしゃいましたら、周りの方にもぜひお伝えいただけますと幸いです。 ・X:https://x.com/tmtabunka/status/1876460159977074875 ・Facebook:https://www.facebook.com/tokyo.tabunkaportal/posts/pfbid02sET78zvqcBdiv6QPGGPNUoHs2NB9wGnqcaacfRfDWJZkSVaGz9WRohdcNNfqFGsLl?ref=embed_page

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第五話 2050年の「ユートピア」 元東京入管局長の…
  2. 日本語議連が総選挙後初の総会 政府の日本語教育の取り組みを議論 日本語教育推進議員連盟(柴山昌…
  3. 主権国家である以上、国境管理をおろそかにすることはできない。その重責を担うのが出入国在留管理…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate