「多文化共生社会における日本語教育研究会」は10日、東京都渋谷区の聖心女子大で「日本語教育政策を語る―この動きは私たちに幸せをもたらすのか」と題したシンポジウムを開催した。日本語教育推進議員連盟が日本語教育推進基本法(仮称)の制定に向けて議論を進めるなどしている中で、当事者である日本語教育関係者がこうした動きをどのように受け止めるべきか、という観点から問題提起を促す取り組みだ。今後の議論の広がりが期待される。

シンポではまず武蔵野大学の神吉宇一准教授が「日本語教育推進基本法の成立とその影響」、続いて文部科学省初等中等教育局国際教育課の近田由紀子・外国人児童生徒等教育支援プロジェクトオフィサーが「外国人児童生徒等教育の充実をめざす支援策について」をテーマに講演。この2つの講演を受けて津田塾大の林さと子教授が「大学での日本語教員養成に求められること」をテーマに講演した。

神吉氏は日本語教育学会の幹部として議員連盟の総会に参加しており、昨年11月から今年6月までの議論の経緯を説明した。また、基本法の法案の中身はまだはっきりしないが、その理念や教育内容、評価に関する課題をしっかり受け止めなければならないと呼びかけた。基本法が成立すれば、日本語教育が「外国人の日本語学習」という狭い範囲に絞られる恐れがあることや社会統合政策との関りが避けては通れなくなることなど様々な課題を指摘した。

近田氏は、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒が平成28年に初めて4万人を超えたことを説明し、同時に文部科学省が施策を充実させていることを具体的に示した。この中には、外国人児童生徒などに対する日本語教育の支援について、児童生徒18人に対し1人の割合で教員を配置する施策を図っていることや、児童生徒の教育に携わる学校の管理職や指導主事を対象に日本語指導法などの研修を実施することなどを例示した。

林氏は2人の発表に関して日本語教育の当事者の立場からコメント。この中で林氏は、日本語教育推進基本法が成立した後は制度的な保障とともに、一定の制約も受けることになると指摘し、そうしたことへの対応を考えるべきだと述べた。人の移動は国際的に活発になっており、ドイツ、オーストラリアなど移民国家における言語教育の事例に学ぶべきだと強調した。また外国人児童生徒の教育に支援策については、教員養成も含め短期、長期の視点でそれぞれ取り組みが必要だと述べた。

このあと、フロアの約200人の参加者が小グループに分かれ、「この動きは私たちに幸せをもたらすのか」というシンポの副題を念頭に、今後、何を目標にどのような取り組みをすべきかなど、それぞれが「アクションプラン」を議論した。

日本語教育推進基本法は順調にいけば、来年の通常国会で成立するという。「基本法」ができれば、国の責任において日本語教育を推進する環境整備が大きく進むことが期待される。しかし、どのような進展があるのかはその運用の仕方にかかっている。その意味では今後、日本語教育の現場からの様々な角度から幅の広い議論が必要だ。今回のシンポはその先駆けとなる取り組みといえそうだ。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

4月
19
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 19 @ 10:00 AM – 11:00 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会『実践に基づく「やさしい日本語」の論点整理』 [日 時] 4月19日(土)10:00~11:00(オープン 9:40)※日本時間   [対 象] 日本語教育関係者、多文化共生に関心のあるすべての方   [定 員] オンライン:250名 ※ 先着順、定員になり次第締め切ります   [参加費] 無料 ※ 要予約、前日(4/18)17 時までに招待 URL を送ります   [講 師] 岩田 一成 先生(聖心女子大学)   [内 容] 『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)を解説します。 10 年以上実践活動に関わって来て、まだまだ一般の人に「やさしい日本語」の理念は広がっていないなあと感じています。 病院関係者は英語志向が強いですし、学校のお知らせは規範に則って冗長なあいさつが冒頭部分を占領しています。 そして国や自治体の文書は細かい・抽象的・長い・硬い…といろいろなクセがあります。 これらは場面別にストラテジーを練る必要があると考えています。その際に大事な論点がいくつかあります。 ・「やさしい日本語」は話し言葉と書き言葉で別物である ・悪文追放は本来「やさしい日本語」運動とは無関係である ・メッセージの内容や社会制度が文章に強く影響を与える そんなお話をしたいと考えています。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井) E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※ 下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/19)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 お申込みフォーム→https://forms.gle/8A4mTHwVKRaUG3Y39
4月
27
4:00 PM オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
4月 27 @ 4:00 PM – 7:00 PM
オンライン読みもの作成入門講座 概要 NPO多言語多読が作成した多読用読みものがどうやって作られているかを知り、実際に小グループで作る体験をしていただきます。初級学習者と中級学習者向けの2つの読みもののリライトを扱います。 ≫ 過去の報告を読む 講座の内容 多読用読みものの現状 多読用読みもののレベル分けについて 求められている題材とは? 初級向け、中級向けの多読用読みもの作成体験 作成した読みものへのフィードバック ※内容は参加者に合わせて変更することがあります 参加対象者 多読用読みもの作りに興味をお持ちの方 多読授業をやっている方で、ご自分の現場に合わせた読みものを作成したい方 NPO多言語多読の読みもの作りに参加したいとお考えの方 基本的に多読について知識がある方を対象にしていますが、多読について知識がない方は事前にご相談ください。
5月
16
5:00 PM 【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
5月 16 @ 5:00 PM – 6:30 PM
日本語探究に関するレクチャーと「中高生日本語研究コンテスト」についての説明を行います。 次のような方におすすめです! ・「中高生日本語研究コンテスト」に関心をお持ちの中高・特別支援・義務教育学校の先生。 ・探究を担当されていて、生徒に様々なコンテストを紹介している先生(教科不問)。 ・日本語好きな生徒を担当している先生。 講師:田中 牧郎(明治大学)/ 村上 敬一(徳島大学)/ 又吉 里美(岡山大学)/ 岩城 裕之(高知大学) お申し込み:https://forms.gle/x8FvkXyzXAZDpR4n7 コンテスト専用サイト:https://www.junior-jpling.org/

注目の記事

  1. 「全中国選抜日本語スピーチコンテスト本選」が5年ぶりに日本で開かれる——ネイティブ並みの日本…
  2. 「多文化ビジネス」に挑戦する株インバウンドジャパン 外国人向けの不動産事業で成功 在留外国人が…
  3. 主権国家である以上、国境管理をおろそかにすることはできない。その重責を担うのが出入国在留管理…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate