一億総活躍社会の「誰もが活躍する社会に関する提言」をまとめた自民党プロジェクトチーム座長・穴見陽一衆院議員に聞く。

自民党一億総活躍本部が今年5月、「一億総活躍社会の構築に向けた提言」を公表した。この中には分野ごとに6つの提言が盛り込まれているが、外国人留学生などの活用を目指す「誰もが活躍する社会に関する提言」のプロジェクトチームの座長を務めたのが穴見陽一衆院議員。穴見氏は平成24年の衆院議員選挙(大分1区)で初当選し、現在3期目。ファミリーレストランジョイフル代表取締役。日本語教育推進議員連盟のメンバーでもある。(聞き手は石原進・にほんごぷらっと代表世話人)
 
――政府・自民党は1億総活躍社会の構築を進める方針で、様々な分野の提言を出していますが、外国人の活用に関して自民党内では積極的に受け入れよう、という雰囲気でしょうか。
 
穴見氏 先輩議員の間では、経団連の意向もあるからなのか、前向きというか、前のめりという感じです。規制の緩和に関してですが、僕自身はその前提として、きちんとした管理も必要だと思っています。「留学」の名目で日本にやって来て、ただひたすら働いていると思われる人たちが1割以上いるといわれています。そういうところをきちんと律するところから始めないと、収拾がつかなくなるのでは。
 
――提言では、留学生に認められている週28時間の資格外活動(アルバイト)について、動労時間の制限を緩和すべきだと述べています。一方で管理の強化も打ち出しています。
 
穴見氏 まずは実態を把握するための情報を集める仕組みを作ることが大切です。政府としてはまだ、実態が把握できていない。(入管法違反で)摘発されるケースも通報ベースでしかないですね。日々の管理が全然できていない。そのための法的な措置にせよ、行政の仕組みにせよ、まだありませんからそれを作るところからスタートしなければなりません。
 
――留学生といっても様々な人がいるわけですね。実情を把握したうえでないと、踏み込んだ話はできないと思いますが、「留学」というビザでは収まり切れない状態では?
 
穴見氏 もともと就学ビザがあって留学に一元化した経緯がありますから、実質的には現在の中身に違いがあるのではないか。日本語能力に関しては、どの程度の能力を要求するかという話になるのですが、日本の企業サイドが不必要にハードルを高くしているところがある。僕も企業経営者として外国人を雇用しているが、N2であれば十分でしょう。大企業の場合はN1を条件にしているところもあるようですが。
 
――最近、留学ビザをとりながら、働くことに精を出している留学生が増えていることが問題になっています。ベトナムやネパール人留学生にそうしたケースが多いと聞きます。
 
穴見氏 日本に来て、日本語を勉強することをどのようにとらえるのか。これも論点として議論が必要だ。いまはN5をクリアすれば、留学ビザで日本に来ることができるが、日本でN4をとれないようでは(資格外活動の)仕事に就けないと思う。問題になっているのは、N5にも到達していないのにビザが発給されているという実態があった。ベトナムの日本大使館に行って話を聞いてビザ発給の業務がてんてこ舞いで、緩い審査にならざるをえないという状況がわかった。それで帰国後に相当問題提起をして、しっかりした体制にできるような雰囲気になった。
 
――出稼ぎ目的であっても留学生には日本語能力を高めることにもっと意識を強めてもらいたいですね。
 
穴見氏 留学生は基本的には勉強をするために日本に来ているわけですから、日本語能力を高めれば、ベトナムに帰っても日本の企業がたくさんあるわけですから、そこに自分を高く売ることができます。日本企業に就職するにはそれなりの日本語力が必要になるわけですが、日本国内の就職ならN2で十分だと、またベトナムに戻って日本企業に勤めるならN3だというように考え方に幅が出てこざるを得ないのでは。
 
――日本語教育を推進するには、日本語教師の質を高め、その数を増やさなければなりません。
 
穴見氏 そのあたりはもう一度、交通整理をする必要があるのではないか。国際交流基金の試験やカリキュラムは国際的な基準に基づく考え方で整理をされています。そこをベースに考える必要があると思うが、文部科学省が日本語教育の制度全般を把握して整合性をもって、監督していく制度に変えていく必要があるのではないか。このあたりは法務省と文部科学省の話を聞いたが、日本語学校の(在留資格などの)監督は法務省で、教育の中身や教師の質、その監督責任は文部科学省が持つことで落ち着きました。
 
――日本語教師が慢性的に不足しています。どのように日本語教師の数を増やすのか。外国人に活躍してもらうには、これも大きな課題です。
 
穴見氏 これから文部科学省に教師の認定の問題を含めた案を作ってもらいます。それが出てきた段階で、どうやって量的な問題を担保していくかという議論を詰めていかなければなりません。ようやく文部科学省が重い腰を上げて「わかりました」と言ったところです。具体的にはこれからです。
 
――漢字圏の中国、韓国、台湾の学生に代わって、ベトナム、ネパールなど非漢字圏の留学生の増加が目立っています。こうした状況の中で日本語学校の一部から就学期間を2年から3年に延ばしてほしいと言う声もでています。
 
穴見氏 いまのところ野放図な状態で広げるということは難しいと思うが、2年間では非漢字圏の学生の日本語習得が難しいということで3年間は必要なんだというカリキュラムの提案があったら、それを否定するものではない。留学名目の「労働留学」に歯止めがかけられていない状況が問題なのであって、これにある程度止血ができる状況になって初めてまともな議論ができるという感じがします。(了)

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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