「基本法」制定に向け骨子案の肉付け作業が焦点に――日本語議連の里見事務局次長が日振協で講演

「基本法」制定に向け骨子案の肉付け作業が焦点に――日本語議連の里見事務局次長が日振協で講演

日本語教育推進議員連盟(日本語議連)の事務局次長で公明党参議院議員の里見隆治氏が29日、日本語教育振興協会(日振協)の日本語教育機関トップセミナーで講演した。日本語議連の幹部が日本語学校関係者の前で講演するのは年明け後初めて。里見氏は日本語議連内に設置された法制化(立法)チームが取り組んでいる日本語教育推進基本法の骨子案の肉付け作業の進展状況を説明。基本法のイメージがより鮮明になってきた。

里見氏は厚生労働省出身。外国人雇用対策課など在籍し、外国人問題に精通した政策通の議員として知られる。昨年6月に全国各種学校日本語教育協会の研究セミナーで講演。その際は基本法の輪郭や骨子案の論点をわかりやすく報告した。今回は、非公開で行っている少人数の立法チームの議論の進展を踏まえ、骨子案の肉付け作業について詳細に説明した。

講演で里見氏は前段で、一昨年11月の日本語議連の発足から昨年11月までに計9回の総会を開くなど議論の流れを説明。里見氏によると、様々な関係者のヒアリングを行う一方、昨年夏から立法チームが作業に着手、たたき台となる骨子案を作成して議論を重ねている。立法チームも関係機関などからヒアリングや意見聴取を行っており、骨子案に具体的な事項を盛り込む肉付け作業が進んでいるという。

骨子案は、目的、定義、基本理念、国の責務等、関係者相互間の連携強化、財政上の措置等を盛り込んだ「総則」から始まり、「基本方針」「基本的施策」「日本語教育推進協議会」の四つの章で構成。基本法の大きな目的は、日本語教育に関する所管官庁を決め、日本語教育の推進事業に法的な根拠を与えることだが、「基本的施策」の中に盛り込む具体策の中身によって、法案の色合いが変わってくる。

この日の講演のポイントもそこにあり、里見氏は会議録から関係団体から立法チームに寄せられた意見や要望などを引用しながら「基本的施策」に盛り込まれる可能性のある施策や事業を説明した。日本語学校に関連する事項については「日本語教育の専門機関としての位置づけ」や日本語学校の「所管官庁の明確化」「質の向上のための第三者評価機関の設置」などを挙げた。また、日本語教師の育成や確保、日本語教材の開発などにも言及した。

ただし、日本語議連としての法制化に向けた議論はこれからだ。立法チームとしては骨子案を固めたあと議連のメンバーに提示し、様々な角度から意見を得たうえで必要があれば改めて関係者からヒアリングを行うなどして法案を詰める考えだ。里見氏は「(議連のメンバーも)まだ肉付けされたものをご覧になっていない状況であり、いま紹介したような意見を、まさに法制化できるものをしっかり肉付けしていく中で、今後法案を準備していきたい」と述べた。

基本法制定に向けての今後のスケジュールについて里見氏は、通常国会では来年度予算の成立後、内閣提出の法案審議が行われ、5月か6月に議員立法による法案の審議が行われると見通しを示した。しかし、議員立法による他の法案も数多く提出される可能性があり、どのように優先順位をつけるかは、各党の国会対策委員会の場で議論されるとし、里見氏は基本法の成立時期については明言しなかった。

議員立法による法案成立までの手続きについては、日本語議連が法案をまとめても各党、各会派の「了解」が必要になる。そこで合意形成ができれば、国会提出後にただちに成立の運びとなる。今回、その道筋に関して懸念材料となるのが民進党の分裂だ。民進党から分かれた希望、立憲民主、無所属の会の3会派が日本語教育基本法にどのように対応するのかは、現段階では不透明な状況だ。日本語議連としても今後の政治状況を慎重に見極めながら対応することなりそうだ。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

4月
19
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 19 @ 10:00 AM – 11:00 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会『実践に基づく「やさしい日本語」の論点整理』 [日 時] 4月19日(土)10:00~11:00(オープン 9:40)※日本時間   [対 象] 日本語教育関係者、多文化共生に関心のあるすべての方   [定 員] オンライン:250名 ※ 先着順、定員になり次第締め切ります   [参加費] 無料 ※ 要予約、前日(4/18)17 時までに招待 URL を送ります   [講 師] 岩田 一成 先生(聖心女子大学)   [内 容] 『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)を解説します。 10 年以上実践活動に関わって来て、まだまだ一般の人に「やさしい日本語」の理念は広がっていないなあと感じています。 病院関係者は英語志向が強いですし、学校のお知らせは規範に則って冗長なあいさつが冒頭部分を占領しています。 そして国や自治体の文書は細かい・抽象的・長い・硬い…といろいろなクセがあります。 これらは場面別にストラテジーを練る必要があると考えています。その際に大事な論点がいくつかあります。 ・「やさしい日本語」は話し言葉と書き言葉で別物である ・悪文追放は本来「やさしい日本語」運動とは無関係である ・メッセージの内容や社会制度が文章に強く影響を与える そんなお話をしたいと考えています。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井) E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※ 下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/19)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 お申込みフォーム→https://forms.gle/8A4mTHwVKRaUG3Y39
4月
27
4:00 PM オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
4月 27 @ 4:00 PM – 7:00 PM
オンライン読みもの作成入門講座 概要 NPO多言語多読が作成した多読用読みものがどうやって作られているかを知り、実際に小グループで作る体験をしていただきます。初級学習者と中級学習者向けの2つの読みもののリライトを扱います。 ≫ 過去の報告を読む 講座の内容 多読用読みものの現状 多読用読みもののレベル分けについて 求められている題材とは? 初級向け、中級向けの多読用読みもの作成体験 作成した読みものへのフィードバック ※内容は参加者に合わせて変更することがあります 参加対象者 多読用読みもの作りに興味をお持ちの方 多読授業をやっている方で、ご自分の現場に合わせた読みものを作成したい方 NPO多言語多読の読みもの作りに参加したいとお考えの方 基本的に多読について知識がある方を対象にしていますが、多読について知識がない方は事前にご相談ください。
5月
16
5:00 PM 【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
5月 16 @ 5:00 PM – 6:30 PM
日本語探究に関するレクチャーと「中高生日本語研究コンテスト」についての説明を行います。 次のような方におすすめです! ・「中高生日本語研究コンテスト」に関心をお持ちの中高・特別支援・義務教育学校の先生。 ・探究を担当されていて、生徒に様々なコンテストを紹介している先生(教科不問)。 ・日本語好きな生徒を担当している先生。 講師:田中 牧郎(明治大学)/ 村上 敬一(徳島大学)/ 又吉 里美(岡山大学)/ 岩城 裕之(高知大学) お申し込み:https://forms.gle/x8FvkXyzXAZDpR4n7 コンテスト専用サイト:https://www.junior-jpling.org/

注目の記事

  1. 「全中国選抜日本語スピーチコンテスト本選」が5年ぶりに日本で開かれる——ネイティブ並みの日本…
  2. 日本語議連が総選挙後初の総会 政府の日本語教育の取り組みを議論 日本語教育推進議員連盟(柴山昌…
  3. 認定日本語教育の法案を閣議決定、国会に提出 政府は2月21日、「認定日本語教育機関」と「登録日…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate