一等賞 日本人に伝えたい中国文化のソフトパワー  浙江工商大学 邱吉

テーマ「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」

日本人に伝えたい中国文化のソフトパワー 浙江工商大学 邱吉

私が日本人に伝えたい中国文化のソフトパワーは漢方医学だ。

私の出身は中国の広西チワン族自治区だ。うちはもともと地元の漢方に関わる家柄で、先祖が残した優れた医術を代々受け継いてきた。

しかし、時代が変わって、西洋医術に人気がどんどん集まり、その影響から漢方医学は衰退してしまった。父は後継の役目を諦め、普通の会社員になった。一人息子の私は、新しい後継者になるべく、物心ついた時から、薬草の匂いの溢れる薬局で、祖父の問診している姿を見ながら育ってきた。しかし、漢方には全然興味を持っていなかった。毎日薬局にくる患者さんも少ないし、お金を稼ぐどころか、毎月赤字だった。そんな状況を見ていられなくて、「お爺ちゃん、どうしてそこまで漢方に拘るの。こんな店、早く閉めたほうがお爺ちゃんも楽になるでしょう?」と、ある日そう言った。祖父は何も言わずにただ笑いながら私の頭を優しく撫でてくれて、また仕事に戻った。

何より漢方を大事にした祖父の気持ちが、その時の私には理解できなかった。

2010年の12月、祖父はとうとう過労で倒れた。薬局は閉めることになり、心の支えを失った祖父は毎日ぼんやりしていた。しかし、ある日突然、一人のおばさんがうちに駆け込んできた。

「先生、お願いします。どうか母を助けてください」と言い、とても焦っている様子だった。そのおばさんのお母さんは階段から落ちて、右足を怪我した。立つこともできないお婆さんを病院に連れていったら、高齢で手術するのも非常に危険だし、有効な薬もないし、もう助ける方法はないと言われた。途方に暮れているとき、おばさんはかつて有名だった漢方の先生、つまり祖父を思い出し、助けを求めに来たのだ。

祖父は自分の体のことも考えずに、すぐに往診に行った。毎日針灸の治療を施すだけではなく、体に優しい薬草を煎じて薬にしてお婆さんに飲ませた。祖父の命がけの努力の甲斐あって、お婆さんの右足が段々動くようになって、最後は自力で立てるようになった。

その時のお婆さんの喜びの涙と祖父の幸せそうな顔は一生忘れられない。西洋医術に人気がどんどん集まった時代に、これは正に中国の新しい魅力――漢方医薬の力だ!

祖父がなくなってもう四年が経った。漢方の後継役は叔父が務めることになり、今もその小さい薬局で、祖父の一番大切な遺産を守り続けている。今の私は大学の日本語科に入ったが、休日にはちゃんと漢方の勉強をしている。いつかきっと、頭を撫でてくれているときの祖父の気持ちが分かると信じている。

陰陽五行説の基盤に立って論ぜられていた漢方医学は二千年の歳月を経て、今は国際化されている。シンガポールでは漢方は政府に認められて、ここ数年間に大変な人気となり、国民から愛されている。アメリカでは、漢方の針灸治療は法制化されて、二万人以上のアメリカ人が免許を得て、針灸に関する仕事をしている。日本では、漢方医学に関する仕事に就いている人は十万人を超え、さらに年々増えている。そして漢方医学教育を行う世界初の針灸大学も設立された。

先祖の知恵の結晶――漢方医学は確実に、全世界に大きな影響を与えている。漢方医学によって、韓国や日本で独自の発展を遂げ、特に日本の医薬品メーカーは伝統中国医学の古典「傷寒論」にある複数の漢方方剤について権利を取得している。また、ここ数年、漢方医薬の効き目が次々に立証され西洋医学との併用で大きな成果を挙げているのだ。

今、中国漢方が医療の在り方を大きく変え始めている。近年、中国政府は保険制度を改革し、もともと西洋の医療に比べて割安だった伝統医療に新たに保険を適用させた。

中国漢方は中国人の誇りであり、中国の新しい魅力であり、私が一番日本人に伝えたい素晴らしい中国文化のソフトパワーだ。

(指導教師 賈臨宇)

邱吉(きゅう・きつ)

1993年、広西チワン族自治区出身。浙江工商大学日本語学部4年。この作文コンクールへの参加は今回が初めてだが、コンクールについて知ったのは2015年3月、中国大学生訪日団で初来日した際、主催者である日本僑報社の段躍中編集長の講演を聞いたことからだったという。作文コンクールには大学2年の当時目標を持ちはじめ、「卒業までには」と4年の時に思い切って作品を応募。「運命は努力したものに偶然という橋をかける」と一定の自信をのぞかせながらも「今回の受賞は予想外だった」と率直な喜びを語る。2017年の秋現在、関西大学大学院修士課程(1年)に在学中。「この受賞をきっかけに、さらに学力を磨きたい」。趣味は「音楽、アニメ、スポーツ」に関すること。

 

※本文は、第13回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」(段躍中編、日本僑報社、2017年)より。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

 

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12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
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日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
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12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
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教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
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※この講座の内容は2022年実施分に準じます。 教室内談話: 学習者間相互交流とL2学習を考える 学習者同士が互いに話し合う活動は、近年の外国語(L2) 教室には不可欠です。また、学習者同士 が学習言語で対話する活動の意義やL2 習得における効果は、外国語教育において興味深いトピッ クの1 つです。本講義では第二言語習得理論を適宜参照しながら、外国語教室で行われる学習者同 士の対話の意義や先行研究で明らかになっている効能、より効果的な実践法や課題と展望について 考察を深めます。 【全4回】 日程: 第1回:2024年11月22日(金)19:00-20:30 第2回:2024年11月29日(金)19:00-20:30 第3回:2024年12月6日(金)19:00-20:30 第4回:2024年12月13日(金)19:00-20:30 内容: 第1回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語習得理論 第2回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語学習 第3回:「学習者同士のL2 対話」と教師 第4回:「学習者同士のL2 対話」とこれからのL2 指導 【受講料】9,000円(税込)※1講座のみお申込み:2,500 円(税込)
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ビジネス日本語研究会 第38回 研究... @ オンライン(ZOOM)
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テーマ:ビジネス日本語における「チームワーク」を考える 現在、外国人材を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。日本で働く外国人労働者の増加、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度の創設などにより、インクルーシブな職場づくりの重要性が増しています。そこで、第38回ビジネス日本語研究会では、「チームワーク」をテーマとします。経済産業省が提唱した「社会人基礎力」のひとつである「チームで働く力」を、インクルーシブな職場ではどのように考えるのか、日本企業で採用に関わる方々のお話も伺いながら、「チームワーク」について、様々な視点から考えます。当日は多くの方にご参加いただき、活発な議論、意見交換が行われることを期待しています。 また、併せて研究発表を実施いたします。

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