訪日外国人と保険2:ケガした、させた~留学生ヒヤリとした事例

訪日外国人と保険:ケガした、させた~留学生ヒヤリとした事例

 ※公益財団法人入管協会の広報誌「国際人流」2018.2号に掲載された記事を転載しています。

インタビュー 木内 健太 日本語学校協同組合 事務局長

留学生で通学やアルバイトで自転車を使う学生は多く、車との接触などの物損だけでも、20~30万、あるいは50万円ほどの支払いになるケースがある。日本人ならなんとかなる金額でも留学生には大きな負担だ。それよりも、自分がケガしたり、させたりしてしまったケースはより大変な事態になってしまう。

店舗開店直前の経営者にケガ~1,100万以上の支払い

2007年、短期留学生Aさんが東京都の商店街を自転車で走行中、店から出てきたB氏を転ばせてしまい、「左肘頭骨折、手術後完治はおおよそ3ヵ月」というケガを負わせてしまった。B氏は3日後に自分の鉄板焼き店をオープン予定で、オープンできなかった期間の店舗家賃などを含めた休業損害を請求。家賃保障については退けたものの、過去3ヵ年の申請所得をベースに治療費、休業損害、慰謝料を含め約185万円を支払った。

しかしその後、B氏は休業損害などの金額が不服として弁護士に相談し、弁護士から約4,000万円近い額の訴状が学生本人、日本語学校、共済会の三者に届くこととなった。共済会としては、既に韓国に帰国した学生本人(韓国に訴状が送られた)、日本語学校を含めて、弁護士とともに対応。争点は、逸失利益(お店をオープンしたら得られたであろう利益)と後遺障害の認定だった。骨折によって肘の伸び具合が悪くなったとの主張があり、後遺症の再診断等認定作業で長期化した。2010年、当事者双方が裁判所に同席し、1,180万円の支払いで和解した。

電動ペダル付自転車は補償対象外

「電動ペダル付自転車」を「電動アシスト自転車」と混同して乗っている学生がいる。一般に広まっている「電動アシスト自転車」は、ペダルを回すと自転車が走行をアシストするだけなので、乗り手が足を止めれば自転車も止まる。一方「電動ペダル付自転車」は、外見は自転車そっくりだが、電源を入れればペダルを回さなくても走り出せるもの。つまり原動機付自転車であり、50ccの原付バイクと同じ扱いとなる。免許も必要で、登録もせずそのまま乗れば「道路交通法違反」、自転車を対象とした学生向け保険プランでは当然補償対象外だ。学生間で知らずに譲り受けたり安易にネット購入して事故を起こしたり、検挙・摘発されたケースもある。学生も学校も要注意。

階段で転んで鎖骨骨折、高額療養費区分の変更を申請

2015年、広島県の日本語学校に在学していたベトナム人留学生が留学早々に寮の階段で転倒して肩をぶつけ、鎖骨を骨折。その後「左鎖骨偽関節」となった。17日間の入院と院後4回の通院で、治療費用は316,717円かかった。市の国保の対応は上位所得区分(ア)を適用とのことであったが、来日したばかりで前年の収入がないのは当然であるので、市に交渉し、一般所得区分(エ)となるよう修正申告した。治療費は国保と組合共済金で全額対応した。

Column 1 国民健康保険、入ってますか?

日本に在留する外国人(留学生含む)は在留期間が3ヵ月を超える場合は、国民健康保険に加入しなければなりません。また、外国人労働者は全国健康保険組合が運営する中小企業向けの健康保険に加入する必要があります。 外国人の中には、これまで病気をほとんどしたことがないし、保険料が高いから健康保険に加入したくないという人もいるのが現状です。加入していなくてもペナルティがあるわけではないので、入っていない人もいるかもしれません。

しかし、日本の場合は国民皆保険なので、いずれかの健康保険に加入する必要があります。万が一、何かの病気になったり、交通事故でケガをした場合、保険がなければ、高額な治療費や入院費を自費で支払うことになります。

なかには、健康保険に加入していないと治療や入院を断る医療機関もあります。治療ができても保険適用外治療になり、治療費が通常より高くなることもあります。問題が起こった時点で、治療を受けるために国民健康保険に入ることはできるのですが、加入はその市町村に住民登録をし、資格を得た日に遡ることになります。つまり、それまで支払っていなかった保険料をまとめて支払うことになります。

遡って保険料を支払うのは、理不尽な感じもしますが、『怪我をしたり、病気になった、今から保険料を支払う』というのもおかしな話です。 これは、外国人に限った話ではなく、日本人も同じ対応になります。いざというときに困らないためにも、手続きをして備えておくことは大切です。

Column 2 にほんごぷらっと

日本語教育推進議員連盟のニュースを中心に日本語教育をさまざまな角度から考える総合サイト「にほんごぷらっと」。日本語学校協同組合は「にほんごぷらっと」をバックアップしています。

<訪日外国人と保険1:保険で守る、留学生の生活>

日本語学校協同組合
東京都千代田区九段南2-3-9 サン九段ビル2F
http://www.jlic.or.jp/

木内 健太(きうち・けんた)「にほんごぷらっと」事務局

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム事務局スタッフ。日本語学校協同組合専務理事兼事務局長、木内インターナショナル(株)代表取締役、創業当時の昭和61年から30年以上にわたって留学生の保険に取り組んでいる。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

4月
19
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 19 @ 10:00 AM – 11:00 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会『実践に基づく「やさしい日本語」の論点整理』 [日 時] 4月19日(土)10:00~11:00(オープン 9:40)※日本時間   [対 象] 日本語教育関係者、多文化共生に関心のあるすべての方   [定 員] オンライン:250名 ※ 先着順、定員になり次第締め切ります   [参加費] 無料 ※ 要予約、前日(4/18)17 時までに招待 URL を送ります   [講 師] 岩田 一成 先生(聖心女子大学)   [内 容] 『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)を解説します。 10 年以上実践活動に関わって来て、まだまだ一般の人に「やさしい日本語」の理念は広がっていないなあと感じています。 病院関係者は英語志向が強いですし、学校のお知らせは規範に則って冗長なあいさつが冒頭部分を占領しています。 そして国や自治体の文書は細かい・抽象的・長い・硬い…といろいろなクセがあります。 これらは場面別にストラテジーを練る必要があると考えています。その際に大事な論点がいくつかあります。 ・「やさしい日本語」は話し言葉と書き言葉で別物である ・悪文追放は本来「やさしい日本語」運動とは無関係である ・メッセージの内容や社会制度が文章に強く影響を与える そんなお話をしたいと考えています。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井) E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※ 下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/19)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 お申込みフォーム→https://forms.gle/8A4mTHwVKRaUG3Y39
4月
27
4:00 PM オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
4月 27 @ 4:00 PM – 7:00 PM
オンライン読みもの作成入門講座 概要 NPO多言語多読が作成した多読用読みものがどうやって作られているかを知り、実際に小グループで作る体験をしていただきます。初級学習者と中級学習者向けの2つの読みもののリライトを扱います。 ≫ 過去の報告を読む 講座の内容 多読用読みものの現状 多読用読みもののレベル分けについて 求められている題材とは? 初級向け、中級向けの多読用読みもの作成体験 作成した読みものへのフィードバック ※内容は参加者に合わせて変更することがあります 参加対象者 多読用読みもの作りに興味をお持ちの方 多読授業をやっている方で、ご自分の現場に合わせた読みものを作成したい方 NPO多言語多読の読みもの作りに参加したいとお考えの方 基本的に多読について知識がある方を対象にしていますが、多読について知識がない方は事前にご相談ください。
5月
16
5:00 PM 【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
5月 16 @ 5:00 PM – 6:30 PM
日本語探究に関するレクチャーと「中高生日本語研究コンテスト」についての説明を行います。 次のような方におすすめです! ・「中高生日本語研究コンテスト」に関心をお持ちの中高・特別支援・義務教育学校の先生。 ・探究を担当されていて、生徒に様々なコンテストを紹介している先生(教科不問)。 ・日本語好きな生徒を担当している先生。 講師:田中 牧郎(明治大学)/ 村上 敬一(徳島大学)/ 又吉 里美(岡山大学)/ 岩城 裕之(高知大学) お申し込み:https://forms.gle/x8FvkXyzXAZDpR4n7 コンテスト専用サイト:https://www.junior-jpling.org/

注目の記事

  1. 日本語議連が総選挙後初の総会 政府の日本語教育の取り組みを議論 日本語教育推進議員連盟(柴山昌…
  2. ロサンゼルスの英字紙編集長から「LA大火から1か月」のレポート 岩手県大船渡市の山林火災で大き…
  3. 「全中国選抜日本語スピーチコンテスト本選」が5年ぶりに日本で開かれる——ネイティブ並みの日本…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate