町立日本語学校が起点となる町の活性化――松岡町長に聞く――(第2回)

町立日本語学校が起点となる町の活性化――松岡町長に聞く――(第2回)


[町立東川日本語学校の校舎入り口にかかる看板]

全国初の公立日本語学校を有する北海道東川町を訪れ、松岡市郎町長にその取り組みを聞いた。

――2015年10月に全国初の公立日本語学校を設立されていますが、町の取り組みについて教えてください。

東川町は国際化に力を入れています。1985年より写真の町として条例を作ってきているが、これに加えて、世界の中の東川として町をつくることを目標としています。人口が減少し、過疎の町であった時代、町内にある専門学校にはピーク時で600名を超える生徒が在籍し、(学生たちが町にいてくれたおかげで)過疎化を克服してきました。とはいっても少子化の影響は避けられず、現在は4分の1の150名程度に減少してしまい、町が用意した学生寮にも空き室が目立ってきていました。このままだと田舎の町の人口減少に歯止めをかけた専門学校が消えることになるという危機感を持ちました。

「学校を守ることは、町を守ることである」と考えを巡らせて、道内や国内の生徒獲得競争ではなく、今後付き合いが深まり、ポテンシャルの高いアジアからの外国人留学生を増やし、定住していただくことに町の戦略をシフトしてきました。

日本語学校設立に先立って2009年からは、町で短期の日本語研修を提供し、日本語研修を通じて日本文化を伝え、人を育てること、町で良い体験をして気持ちよく帰ってもらうというローテーションを組みました。これがとても好評です。

きっかけがありました。台湾から町に滞在していた方が、台湾人は写真も好きだし、日本語も勉強している。町に来たい人もいるはずと教えてくれた。また、韓国から町の専門学校に留学していた方からは、韓国の都市と東川町が若者の交流をするのはどうかと提案してくれた。この提案にすぐに飛びつき担当者を派遣しました。

この事業に兆しが見え、短期の研修ではなく年間を通じて町を体験してもらうことはできないかと、町立日本語学校の設立を意思決定しました。そして2015年10月には日本初の公立日本語学校を開校することになりました。


[松岡市郎・北海道東川町長。2003年より現職]

――日本語学校の経営にはコストがかかると思いますが、どのようなモデルなのでしょうか。また、納税者である住民は納得されているのでしょうか。

町に住む外国人は食事もするし、旅行にもお金を使う。でも観光に来る外国人は町ではなかなかお金を使わない。

(日本語学校を運営すると)留学生から授業料を得るので、町の収入が増える。留学生が住人となって町で消費することになり、町の経済発展につながり、同時に町で働く若者の雇用も創出している。日本語学校の校舎内に併設されている食堂で提供するランチは、町で採れた食材を活用し、経済の活力を生んでいる。

外国人が住人となれば国からの交付税も増加する。国勢調査に基づく人口に応じて国から地方交付税が交付されており、これには留学生も含まれます。例えば、留学生280名が人口にカウントされればその人数分の交付税が増える。町はその交付税を公共サービスに還元している。具体的に言えば、高齢者タクシーのチケット配布や、保育サービスの充実、公共施設への投資、道路の補修、その他社会福祉に分配している。

町の職員には、留学生は出身の国にお金を持って帰るのではない。町で消費するから恩恵をもたらすという考えを浸透させてきた。ただ、住人からは奨学金制度による学費や寮費の補助など、外国人にだけ手厚い制度を設けているとの批判が出ている。住人への告知が不十分であったので、これからはしっかりと浸透させていきたい。

――どのような留学生を町は応援しているのでしょうか。

短期研修の場合は、町を知ってもらうことで、つながりを大切にしている。長期の留学生となると、やはり定住していただく人材を育てたい。国の一億総活躍では、介護離職ゼロを目指すとしているが、とにかく地方には人材がいない。技能実習制度を活用して介護人材を連れてくる動きがあるが、日本語力は不足している。日本語のコミュニケーション力が高い人材を育てないといけない。

――留学生の就職は都市部、特に東京近郊が多いが、地方ではどうか。

日本で働きたいという学生は多い。また、地元就職を希望する学生も多い。北海道では隣の市の旭川市が2番目の都市。ベトナムの交流協会が新たにできている。また、地元企業と留学生をマッチングする説明会も開催している。卒業生で地元企業に就職しているものもいる。

――地域住民と留学生はどのような関係性をつくっていますか。

生活者としてみると、留学生はいかに地元と触れ合うかが大切。生きた日本語を身につけ、日本を肌で知ってもらうことになる。住人も外国人との暮らしを受け入れるとよい。もとが開拓民であるから外からの人に優しいし、相手がわかれば外国人と日本語でコミュニケーションができるようになる。日本語学校の授業のあと、午後の時間は、地域の囲碁や俳句などの文化団体の活動に参加してもらって、地域住民とつながりをつくっている。ただ、若者が少ないので、留学生と同年代の日本人との交流はなかなかうまくいかない。

――町に定住する外国人は増えていますか。

ベトナムやウズベキスタン等の国際交流員を町の職員として配置して、外国人子弟の支援をしている。教育施設は充実させてきているので、隣の旭川市からわざわざ外国人が住みに来ている。また、外国人だけでなく日本人も住みに来ている。教育に力を入れていこうとしているが、地元の高校からは国立大学に進学することはほとんどないが、今年は地元で育った外国人のお子さんが国立大学への合格を目指している。外国人住民から日本人が刺激を受けてくれたらよい。

松岡町長のインタビューからは、日本語学校を起点に活性化しようとする姿勢が見て取れた。町立日本語学校の取り組みは、生活者としての外国人は、地域経済を活性化させるということを前提に、地方交付税を上手に使い、町の経済が循環するモデルを形成しているように思えた。(聞き手:阿久津大輔・にほんごぷらっと編集長)

第3回:町立の日本語学校モデルとは?――三宅良昌校長が描く町の将来―― につづく
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特集:日本語教育と地方創生

人口減少が急速に進む地方都市において、日本語学校を地域の活性化に結びつけている町があるのをご存じだろうか。北海道旭川空港から東に車で15分の東川町だ。2015年10月、日本初の公立日本語学校を開校し、町をあげて外国人留学生を歓迎している。「偽装留学生」や「デカセギ留学生」などと揶揄されることが多い昨今、地方の公設の日本語学校がどのように留学生と付き合っているのか。雪深い町立東川日本語学校を訪ね、その実情を通して、日本語教育と地方創生の可能性について考えてみた。

阿久津 大輔(あくつ・だいすけ)「にほんごぷらっと」編集長

投稿者プロフィール

日本語教育情報プラットフォーム設立時より事務局を担当し、フェイスブックページ「日本語教育情報プラットフォーム」の管理人として情報を発信。2017年9月よりネットメディア、言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」編集長。専門分野は外国人人材のキャリアプランニング。

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12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
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日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
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本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
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※この講座の内容は2022年実施分に準じます。 教室内談話: 学習者間相互交流とL2学習を考える 学習者同士が互いに話し合う活動は、近年の外国語(L2) 教室には不可欠です。また、学習者同士 が学習言語で対話する活動の意義やL2 習得における効果は、外国語教育において興味深いトピッ クの1 つです。本講義では第二言語習得理論を適宜参照しながら、外国語教室で行われる学習者同 士の対話の意義や先行研究で明らかになっている効能、より効果的な実践法や課題と展望について 考察を深めます。 【全4回】 日程: 第1回:2024年11月22日(金)19:00-20:30 第2回:2024年11月29日(金)19:00-20:30 第3回:2024年12月6日(金)19:00-20:30 第4回:2024年12月13日(金)19:00-20:30 内容: 第1回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語習得理論 第2回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語学習 第3回:「学習者同士のL2 対話」と教師 第4回:「学習者同士のL2 対話」とこれからのL2 指導 【受講料】9,000円(税込)※1講座のみお申込み:2,500 円(税込)
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テーマ:ビジネス日本語における「チームワーク」を考える 現在、外国人材を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。日本で働く外国人労働者の増加、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度の創設などにより、インクルーシブな職場づくりの重要性が増しています。そこで、第38回ビジネス日本語研究会では、「チームワーク」をテーマとします。経済産業省が提唱した「社会人基礎力」のひとつである「チームで働く力」を、インクルーシブな職場ではどのように考えるのか、日本企業で採用に関わる方々のお話も伺いながら、「チームワーク」について、様々な視点から考えます。当日は多くの方にご参加いただき、活発な議論、意見交換が行われることを期待しています。 また、併せて研究発表を実施いたします。

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