外国人急増 秋には日本語教育推進基本法制定へ 日本語議連が意欲 

外国人急増 秋には日本語教育推進基本法制定へ 日本語議連が意欲

「政府に申し上げたいのですが、議連として日本語教育を整備している中で、外国人受け入れについて新聞報道などで『骨太』にも積極的、前向きな外国人受け入れの検討が行われているようであるけれど、新たな類型で外国人受け入れを検討されるのであれば、私たち国会サイドで日本語教育をやっていることをしっかり念頭に置いてやってもらいたいと強く申し上げたいと思っている」

日本語教育推進議員連盟が日本語教育推進基本法の法案の政策要綱を了承した5月29日、議連事務局次長の里見隆治公明党参院議員は、総会に同席した関係省庁の官僚約20人に対し強い調子でこうクギを刺した。骨太とは、政府の経済財政運営の基本指針(骨太の方針)のことだ。有識者による「経済財政諮問会議」が作成するものだが、官僚の下書き文書を有識者がオーソライズする仕組みだと見られている。近く公表予定の2018骨太の方針に、外国人受け入れ枠の拡大策が盛り込まれると連日のようにメディアで報じられている。

里見氏は、こうした動きに対し日本語議連として警鐘を鳴らしたのだ。外国人受け入れの最重要施策である日本語教育について立法府として初めて法制化するため汗をかいているというのに、それを無視するようにマスコミ報道を通じて既成事実化しようとするのはいかがなものか。里見氏の言葉には、そんな苛立ちがにじんでいた。

ところが、翌30日の日本経済新聞朝刊の1面トップには「外国人、単純労働にも門戸、政府案『25年に50万人超』」の見出しが躍った。骨太の方針の原案に外国人労動者の受け入れ拡大の政策が盛り込まれるというわけだ。しかも記事には「日本語が苦手でも就労を認め、幅広い労働者を受け入れるのが特徴だ」との記述まであった。

急増する外国人労働者は、消費者でもある。そして、生活者であり、日本人の隣人だ。国際結婚や家族の呼び寄せによって、小中学校には「外国にルーツを持つ子供」も増えている。そうした人たちとのコミュニケーション手段は日本語だ。彼らとの共生社会をつくるには、日本語教育が欠かせない。だからこそ、日本語議連が日本語教育の法整備に取り組んでいるのだ。

現在、国内の日本語教育に関わっているのは文化庁国語課だ。主たる所掌事務は国語教育だが、組織令には「外国人に対する日本語教育に関すること」とも書かれている。ただし、かっこ内に「外交政策に関わるもの並びに初等中等局及び高等教育に属するものは除く」とある。海外向けの日本語教育は外務省・国際交流基金が担当しているが、文部科学省の初等中等局、高等教育局には「日本語教育」を担当している課が見当たらない。

里見氏に先立ち会長代行の中川正春元文科相が持論をこう述べた。「日本という国はここまできたら本来は移民庁という窓口をつくって、総合的に国をどう開いていき、海外にどう展開していくか、ということを考えていかなければならないと思う。これまで『移民』という言葉を封じてきた。だから大義名分と本音が違うという形で入管制度がつくられてきて、現場の皆さんが苦労をしてきている」。急増する外国人の施策を進めるには、正面から移民受け入れを議論すべきだ、というわけだ。

実は10年前、政治の場で移民受け入れが活発に議論されたことがあった。自民党の外国人材交流推進議員連盟が中川秀直会長(元幹事長)のリーダーシップで2008年6月、「日本型移民政策の提言」をまとめた。私は元東京入管局長で移民受け入れの旗振り役の坂中英徳氏らと政策の文書づくりなど、議連の活動を幅広くサポートした。提言では、日本語教育などで外国人材を育成したうえで、年間20万人、50年で合わせて1000万人を「移民」として受け入れる、という内容だった。提言は自民党の政策に格上げされ、中川会長から当時の福田康夫首相に手渡されたが、福田政権が直後に退陣し、「幻の移民政策」となってしまった。

この「1000万人移民受け入れ」の提言に対しては、保守系の団体や一部の与野党の議員から激しい反発があった。中川会長のもとには抗議のメールやファックスなどが殺到した。坂中氏と私は、議連の活動を支援するため都内で「日本型移民政策を考える」と題したシンポジウムを開いた。この催しにも反対派が街宣車で駆け付け、会場前でボリュームいっぱいに「移民反対」を叫び、会場内では数十人がヤジをとばすなどして議事を混乱させた。「移民」という言葉はまだタブーだった。

「多文化共生」「多文化共創」「インターカルチュラルシティ」……。異文化間の軋轢などが生じる移民問題を解決するため、内外で様々な研究が行われ、試行錯誤をしながら多様な取り組みが展開されている。外国人と共生できる社会を築くには、平等、多様性への理解、そして相互交流が必要だと言われる。それを築くためには法律に基づく制度づくりが必要だ。日本でその第一歩となるのが日本語教育推進基本法である。

「日本型移民政策の提言」から10年。政府は深刻な人出不足を補うため、やみくもに「外国人受け入れ枠」を拡大させている。一方で昨年、西日本新聞が「新 移民時代」というタイトルの長期連載で早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した。外国人との共生社会をめざす日本語教育推進基本法が、皮肉なことに無秩序な外国人受け入れのブレーキ役になりそうな気配だ。時代は大きく変わっている。

議連の総会で司会を務めるのは事務局長の馳浩元文科相。馳氏はフリースクールと夜間中学を支援する「義務教育機会確保法」を議員立法で成立させた立役者だ。夜間中学の生徒の7割は外国人。確保法の成立で文科省は夜間中学重視に政策を大幅に転換した。今度は「国策として各省庁にまたがっている日本語教育の施策を基本法のもとに一括して推進していく」と、日本語議連のキーマンとして活躍している。日本語議連は幹部が社会的弱者の視点を持っているからこそ、党派を超えて結束しているように見える。

馳氏のブログ「はせ日記」は、29日の総会をこう記している。

10時00分、参1階102
日本語教育推進議連 総会
☆立法チームの政策論点整理案了承。
やった!一年かけ頑張って良かった。
でも、山場はまだこれから。
これから一か月ほどかけて、法制局と立法チームで条文化することを了承いただく。
秋の臨時国会を視野に、成立に向けて取り組んでいきたい。
なし崩し的な外国人労働者の受け入れ枠拡大とならないようにも、日本語教育の水準向上が必要。
質も、量も必要。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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