日本語教育推進基本法案が在日外国人の「日本での共通語は日本語」宣言 ~地域共通言語としての<やさしい日本語>に、もっと注目を~
- 2018/5/31
- 時代のことば
- やさしい日本語, 日本語教育推進議員連盟
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日本語教育推進基本法案が在日外国人の「日本での共通語は日本語」宣言
~地域共通言語としての<やさしい日本語>に、もっと注目を~
日本語教育推進議員連盟が5月29日、日本語教育推進基本法案の(仮称、以下「基本法案」)の政策要綱を発表した。どのような経緯で日本に来た外国人に対しても、国が日本語教育の推進を図る責務があるということを骨子としている。
この法案では、母語が日本語でない人々との共生社会においても「日本での共通言語は日本語である」という方針が示されたともいえる。日本人には「外国人=英語」という固定観念が見られるが、法律で「日本語」が明記される意義は大きい。
「教育」という施策は、外国人側にも一定の努力を求める。日本語がゼロでは社会に受け入れづらいという立場は、国や自治体、企業、地域コミュニティとしては当然だ。日本語教育が政府・企業・日本人側による外国人のための一方的な施しではないことを明確にすることもまた、世論形成上重要である。
外国人への「日本語教育」は、「その人に外国語を学ばせる」ということに他ならない。私たちが英語を学ぶのと同じことである。身につく人もいれば、そうでない人もいる。教育という施策は、成果を保証できない点に難しさがある。それでも「日本での共通言語は日本語」という日本側のスタンスを崩すことはできない。
ここには、<やさしい日本語>の視点を加えることが有効である。
<やさしい日本語>とは、外国人など日本語を学んだばかりの人にも伝わりやすいように語彙や文法を調整した日本語のことである。<やさしい日本語>の権威である一橋大学庵功雄教授は、「地域社会で共通言語になりうるのは英語でも普通の日本語でもなく<やさしい日本語>だけ」、「自然に任せた場合には、いかなる共通言語も生まれない」と述べている。外国人への日本語教育は、日本・日本人側も<やさしい日本語>で外国人と接する社会づくりと両輪で推進していかなければ、いかなる成果も生まれない恐れがあろう。
法案では、予算などの裏付けは国の責務とした上で、以下の条文で就労者を受け入れる企業の協力を求めている。
第一 総則
四 国の責務等
3 外国人等を雇用する事業主は、国が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに、その雇用する外国人等の日本語学習に対する支援に努めるものとすること。第三 基本的施策
一 国内における日本語教育の普及推進
3 外国人等の就労者、技能実習生等に対する日本語教育関係
(1) 国は、企業が外国人等に対して日本語学習の機会を提供し、及び研修等における専門分野に係る日本語教育の充実を図ることができるよう必要な支援を行うものとすること。
事業主にとって、雇用する外国人に日本語学習を支援する理由は、職場でのコミュニケーション目的に他ならない。しかしコミュニケーションは双方向である以上、日本人側も相手のレベルに合わせることが求められる。「日本語の先生の言うことは分かるけど、職場の人の言うことは全然わからない」とこぼす外国人は多い。これはいかに教室で日本語を教えたところで解決できない問題である。
そもそも個人のスキルとなる日本語教育について、企業がどれだけ費用・手間をかけて国の施策に協力するかは疑問である。技能実習生も転職ができるような制度変更が進めばなおさらである。予算の裏付けは国が保証するとしても、企業において「外国人従業員との向き合いでは、日本人側も<やさしい日本語>を使う」ことも国の施策への協力と位置付ければ、協力も得やすいのではないだろうか。
また以下の条文には、日本語教育関係の広報活動も重要であると定めている。
5 地域における日本語教育関係
(2) 国は、日本語教育が外国人等の日本語能力の向上のみならず、共生社会の実現にも資することを踏まえ、外国人等に対する日本語教育への国民の理解と関心を増進するため広報活動等の必要な施策を講ずるものとすること。
外国人のために日本語をやさしく話したり書いたりすることは、実は決して「やさしい」ものではない。しかしながら、外国人が日本語上級者になるまでの努力に比べればはるかに簡単である。いくつかの「コツ」を意識し、寛容な心を持ち合わせるだけで、子どもから高齢者まで<やさしい日本語>を話せるようになる。広報活動だけでなく、現在各地で行われている市民向けの<やさしい日本語>研修会などの活動への支援も期待したい。
多文化共生社会においては、インフォメーションの多言語対応だけでなく、住民同士としての直接コミュニケーションも求められる。法案が提出される今こそ、<やさしい日本語>を地域社会の共通言語として位置付けていく絶好の機会である。2018年2月には学習院女子大学で初めて「やさしい日本語シンポジウム」が開催され、外国人だけでなく案内板などの公共サインやろう教育など多様な視点から<やさしい日本語>の意義が提起された。各所から<やさしい日本語>に関する様々な情報発信も行われていくだろう。
3月2日に文化庁が公開した「日本語教育人材の養成・研修の在り方について」報告では、日本語教師や日本語学習支援者が学ぶべき研修内容として<やさしい日本語>が明記されている。外国人へのやさしい話し方を一番よく知っているのは、外国人に日本語を教えている日本語教師である。基本法で日本語教育関係者が日本人に向けた<やさしい日本語>の領域にも位置づけられれば、彼らの活躍の場が広がるだけでなく、収入の多様化・待遇改善にもつながるのではないか。
国会提出にあたっては、「受け入れる日本人側にもやっておくことはないのか」という視点から、<やさしい日本語>が明記されることを期待したい。