「日本語教育」には強い追い風 「日本語学校」はどこ吹く風?
- 2018/6/27
- 時代のことば
- まち・ひと・しごと創生基本方針2018, 未来投資戦略2018, 規制改革実施計画, 骨太の方針
- 665 comments
「日本語教育」には強い追い風 「日本語学校」はどこ吹く風?
人手不足が深刻化する中で、政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)などで「外国人材を幅広く受け入れていく仕組み」を構築する方針を示した。一方、超党派の日本語教育推進議員連盟は日本語教育推進基本法(仮称)の秋の臨時国会での成立を目指している。これにより、日本語教育が大きくクローズアップされ、早くも日本語教育関係者に強い追い風が吹き始めた。しかし、その最前線にある日本語学校の存在感がいかにも薄い。業界団体が分裂した中で、日本語学校がどこに向かおうとしているのか、何を求めているのか。
日本は歴史的に例のないスピードで人口減少が進んでいる。2050年には人口がいまの3分の2になり、3人に1人以上が高齢者という厳しい時代を迎える。過疎化が急激に進み、北海道夕張市のように財政破たんする自治体が相次ぎ、後継者不足で人材倒産する企業が続発するのではないか。
政府はすでに直面している人材難に強い危機感を抱いている。人口減少は「脅威」と言ってもいいのではないか。政府は「移民政策とは異なるもの」とは言いつつも、これまでの方針を大きく転換、外国人の受け入れ枠を大幅に拡大する方針だ。先に閣議決定した「骨太の方針2018」には「従来の専門的・技術的分野における外国人に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」と記述した。
政府は、必要な労働力を得るため新たな在留資格を設けると宣言している。具体的に想定しているのは農業、建設、造船、介護、宿泊の5分野だ。ほかにも必要に応じて受け入れ枠を増やしていくとみられる。身分に基づく日系人の「定住者」という在留資格も、「3世まで」だったのを「4世まで」に拡大した。
骨太の方針では「外国人受け入れの環境整備は、法務省が総合調整機能を持って司令塔的役割を果たす」と言う。出入国管理に責任を持つ法務省が総合調整のかなめになる方向を示しているわけだ。外国人受け入れの「仕組みづくり」が大きく進展するのは間違いない。政府としても本気で取り組むべき問題だと認識しているようだ。
日本語教育については、外国人留学生の日本での就職の拡大、「高度人材のポイント制」の見直しに言及し、「これらの前提として、日本語教育機関において充実した日本語教育が行われ、留学生が適正に在留できるような環境整備を行っていく」としている。
骨太の方針は、安倍内閣の政策の基本方針となる最も重要な文書だが、政府はほかにも「規制改革実施計画」や「未来投資戦略2018」、さらには「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」という文書も閣議決定している。これらの文書には、労働力不足を補う外国人労働者をはじめ、外国人観光客の受け入れ、外国人留学生の日本企業への就職の促進、外国人との共生の在り方などが盛り込まれ、同時に日本語教育の充実などにも言及している。まさに「外国人受け入れ元年」とでも言えそうな文書のオンパレードだ。
日本語議連が作成した日本語教育推進基本法の原案(政策要綱)では、日本語教育を国や地方自治体の「責務」とし、外国人を雇用する企業にも「努力義務」を課し、関係省庁の連携強化、国内、国外の日本語教育普及についても細かく規定した。国内の日本語教育では、外国人児童生徒をはじめ、外国人留学生、技能実習生、難民など分野を分けて記述した。
また、関係省庁による施策の調整機関としての日本語教育推進協議会と協議会に意見具申をする日本語教育推進専門家会議の設置も規定した。民間の有識者による専門家会議の意見を聞きながら協議会で「基本方針」を策定し、それを閣議で決定する、という段取りが見えてくる。閣議決定で政府として意思決定したことは、各省庁が予算を付けて事業として実施する。基本法が成立すれば、日本語教育の在り方が大きく前進することは間違いない。
しかし、日本語学校に関しては素っ気ない記述だ。原案では「日本語教育機関に関する制度の整備」について、国が「検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とされているが、あくまで「検討条項」として書かれているに過ぎない。検討項目は次の4点だ。
- イ 当該制度の対象となる機関の類型及びその範囲
- ロ 外国人留学生の在留資格に基づく活動の管理に対する協力に係る日本語教育機関の責務の在り方
- ハ 日本語教育機関の教育水準の維持向上のための評価制度等の在り方
- 二 日本語教育機関における日本語教育に対する支援の適否及びその在り方
基本法が成立したら、政府はイから二までの4項目について検討を加えることになるが、政府は日本語学校のどの団体からどのように意見を聴取するのか。日本語学校の業界団体は7つもあり、そこに加盟していない学校も数多くある。業界団体そのものに「正当性」があるのかどうか。先に触れた日本語教育推進専門家会議に日本語学校の代表を送るとしたら、どの団体から選ぶのか。
政府としては、業界団体に意見の対立や見解の相違する事項があったとしたら、検討すらしないだろう。検討を先送りするのか、それとも業界側の意見を無視して政府が独自に判断してことを運ぶことになるのか。
そもそも基本法の原案で、日本語学校の関係事項が検討事項とされたのは業界団体が複数あるため合意形成が難しいと日本語議連が判断したからではないか。外国人が増えれば日本語教育の「需要」が増大する。日本語学校のビジネスの幅が広がるはずだ。企業に勤める外国人のために夜間の日本語学校があってもいい。不足する日本語教師を補うためには資格がありながら家庭に入ったままの主婦らに教壇にたってもらうための「公的な手当」を設けられないのか。外国人留学生の成績優秀者が日本語教師養成課程に通う際、助成金を出せないのか……。少なくとも団体間で一致できることは連携・協力して政府にモノ申すことぐらいすべきだろう。
日本語議連は、秋の臨時国会に日本語教育推進基本法案を提出する意向だ。しかし、政局が混迷すれば超党派の議員立法といえども成立がおぼつかなくなる。「法案の早期成立」で一致できるのでれば、各党党首に団体名を連ねた要望書を出してはどうか。業界団体の連携・協力の第一歩となるかも知れない。