在留外国人の「国保利用問題」 外国人へのネガティブ感情の増幅を懸念する
- 2018/9/4
- 多文化共生, 時代のことば
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在留外国人の「国保利用問題」 外国人へのネガティブ感情の増幅を懸念する
在留外国人の国民健康保険(国保)の活用の仕方について一部から疑問の声が出ているのを受け、自民党外国人労働者等特別委員会(木村義雄委員長)の「在留外国人に係る医療ワーキンググループ」(WG)が8月29日、地方自治体の国保担当者を招いてヒアリングを行った。ヒアリングを報じた産経新聞は「医療窓口の自治体が不正を見破るのは困難で、なかなか全体像がつかめないのが実情だ」と指摘している。
政府は来年4月から外国人労働者受け入れの大幅拡大を決めている。2025年までに20に近い業種で新たに外国人労働者を受け入れる意向といわれ、7年後にはすでに在住する中長期滞在者256万人(2017年末)と合わせると300万人を大きく超える外国人が日本で暮らすようになるはずだ。
このため外国人との「共生」が、政府が向き合う重要な政策課題となるが、それに水を差しかねないのが外国人の国保の利用に関する扱いだ。厚生労働省によると、2017年度の被保険者は3013万人で、このうち99万人が(3.3%)が外国人だ。被保険者全体が減る中で外国人の被保険者が大幅に増えている。3カ月以上日本に滞在する外国人には加入が義務づけられているからだ。
問題とされたのは、「留学」など在留資格で日本に入国し国保に加入して、少額負担で高額治療を受けるケース。医療目的で入国した場合は、国保には加入できず、医療費の全額が自己負担となる。しかし、留学やビジネス関係などの在留資格を取得して入国すれば、その意図はともかく、医療保険の利用を排除する法的な仕組みは存在しない。
ヒアリングで自治体側は「入国後すぐに高額な治療を受けた場合でも、保険資格が適法で保険料を納入する以上、一概に不正利用と断定できない」という。そもそも目的を偽って在留資格を取得したら入管法違反だが、国保の不正利用に関しては入管法で規制できない。
海外での治療費を還付する海外療養費や出産育児一時金(42万円)も検討課題として議論の対象になったという。海外療養費は、日本人が海外に行って受けるために創設された制度だが、東京都荒川区の資料では区が2017年度に支給した海外療養費71件のうち30件が外国人だった。同年度の出産育児一時金262件のうち海外で出産した外国人の国保加入者への支給が35件あった。
政府は先の「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」に提出した「総合的対策」(案)の中で、我が国の医療保険が不適切に使用されることのないよう、「市町村と地方入管局が連携し」、「適正化に向けた取り組みを進める」としている。WGは今後、医療保険の外国人に対する扱いなどを調査し対策づくりを進める方針だという。
こうした動きを批判するのが、外国人の人権擁護の活動などに取り組むNPO法人・移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)だ。移住連は、「外国人が医療保険制度への『ただ乗り』しているとの見方は事実誤認」だとし、差別や偏見を助長する報道や政府の調査に抗議する声明を出している
移住連によると、厚生労働省が2016年11月から1年間の外国人レセプト1489万7134件を調査したところ、国保資格取得日から6カ月以内に80万円以上の高額な治療を受けたのは1597件(総数の0.01%)で、「不正な在留資格である可能性が残る」とされたのは2件だけだった。厚労省は自治体への通知で「在留外国人不適正事案お実態把握を行ったところ、その蓋然性があると考えられる事例は、ほぼ確認できなかった」と述べている一方で、地方自治体に対し疑わしいケースについて外国人への聞き取り調査や法務省入国管理局への通報を求めている。
これに対し移住連は、入管法や在留資格に関する知識のない自治体職員が独自に「疑わしい」と判断して外国人に聞き取りを行うことは差別や偏見を助長し、外国人の保険利用を委縮させる恐れがある、としている。また、移住連はNHKの「クローズアップ現代+」(2018年7月23日)で放映された「日本の保険証が狙われる~外国人急増の陰で~」に対し事実に基づかず、恣意的な情報操作のもとに制作されたと批判している。
そもそも外国人に関するマスコミ報道は、固定観念に基づくものが少なくない。「外国人犯罪が多い」というのもその一つだろう。そうした固定観念があれば、「医療保険のただ乗り」は、外国人急増時代の「ありそうな話」として受け止めてしまうのではないか。
国保の扱いは、「共生社会」を目指す安倍政権にとって、極めてデリケートかつ重要なテーマだ。政府から見て外国人の「不適切」な国保利用は、おおむね法律に違反する事例ではないだろう。しかし、適法であっても外国人の利用が増えれば、国民感情を刺激する「好ましからざる話」として伝えられることもあるはずだ。外国人とのコミュニケーションを十分にとることで相互理解を深めたい。併せて政治の場でより深い議論を重ねて欲しい。
石原 進