朝日新聞の「多民社会」のキャンペーンと国際紅白歌合戦
- 2018/10/22
- 多文化共生, 時代のことば
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朝日新聞の「多民社会」のキャンペーンと国際紅白歌合戦
朝日新聞が10月21日の朝刊で「多民社会」というタイトルの記事で外国人受け入れのキャンペーンをスタートさせた。日本は多民族、多文化の人々が集う「多民社会」に足を踏み入れたという。政府が来年4月から外国人労働者の受入れを拡大するのを見すえた連載なのだろう。2016年から翌年にかけて西日本新聞が「新 移民時代」という大型企画を連載し、大きな反響を呼んだ。外国人の受け入れに関しては「異論」を唱え、「懸念」を示す人が少なからずいるのは否定できない。しかし、人口減少時代には外国人との「共生」を抜きには未来を語れないのも事実だ。マスメディアが相次ぎ本格的なキャンペーンに乗り出すことで、国民世論や政治の流れに変化が加速することを期待したい。
新聞の大型連載は、初回の記事を読めばその問題意識がだいたい予想がつく。1面トップの記事では「日本に移り暮らす」の大見出しに「労働者・生活者として溶け込む外国人」の見出しが続く。記事では、中国内モンゴル出身の女性が福岡市の日本語学校、佐賀大学で留学生生活を送った後、JR九州に就職。博多駅のホームで外国人観光客を迎える最前線で活躍する姿を伝える。また、イスラム教徒のインドネシア人の主婦が東京・八王子市の幼稚園で日本人の「ママ友」から助けられる話や、モスクでの金曜礼拝のため授業を休むことに理解を示す中学校の考えも紹介する。
記事は2面に続き、ITのベンチャー企業を立ち上げた「高度人材」の中国人若手社長の「ジャパニーズ・ドリーム」、過疎が進む鹿児島県・奄美大島の飲食店を支える日本語学校の留学生、さらには日系ブラジル人が多く住む愛知県豊田市の保見団地の日系人と日本人の暮らしぶりの一端を伝える。それぞれの事例が「ニュース」というわけではないが、すでに日本には隣人としての外国人が数多く暮らし、共生社会が出来つつあるのだ。
タイトルの「多民社会」という言葉は、一部の人たちの「移民」へのアレルギーから考えた造語のようだが、言いたいのは、様々な国籍、文化を持つ人たちとわだかまりなく暮らせる寛容な社会を作ろう、ということだろう。仄聞するところでは、朝日新聞はこの日の記事をスタート台にして様々な角度から外国人と日本社会との関りを取り上げ、キャンペーン展開するという。一の雑誌やテレビでは「ヘイト」な記事や番組が散見されるが、大手メディアとしての見識を示してもらいたい。
ただ、気になる点もある。朝日新聞だけでなく、毎日新聞や日本経済新聞などで「単純労働」という言葉を使っていることだ。かつて政府は雇用対策基本計画の中で「いわゆる単純労働」の外国人の受け入れを事実上行わない旨をうたい、「専門的・技術的分野」にだけ「高度人材」を受け入れるとしてきた。私は労働を「単純労働」と「高度人材」にあからさまに区別することに違和感を覚え、公的なシンポジウムなどで異論を唱えてきた。政府は、単純労働者は受け入れないということで技能実習生を受け入れてきた。裏を返せば技能実習生を受け入れている農業や製造業などの分野で働いているのは「単純労働者」ということなる。AIやITの時代である。単純作業はあっても単純労働だけで成り立つ職業分野などあるわけはない。
自民党で外国人労働者受け入れをけん引する木村義雄参院議員は「政府の役人に単純労働とは何か言ってみろとただしたが、答えられなかった」と話し、政府や自民党はすでに単純労働という言葉を使わなくなったという。
朝日新聞の「多民社会」が掲載される前日の20日、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターの大ホールで「第8回国際紅白歌合戦」が開かれた。東日本大震災が起きた2011年に留学生ら外国人と日本人が歌を通じて交流し、日本を元気にしようと始まったイベントだ。原則、日本人は外国の歌、外国人は日本の歌を披露することで多文化交流を図ろうというわけだ。
企画や運営を一手に取り仕切るのは、「グローバルコミュニティ―」というミニコミ誌を発行する宮崎計実さん。宮崎さんの活躍で大阪観光局の誘致で大阪でも紅白を開いたことがあるほか、フィリピンのセブ島やインドネシアのバリ島でも「国際紅白歌合戦」が開催されている。
第8回歌合戦のこの日はセブやバリからも「歌手」が招かれたほか、コンゴ人の父と日本人の母を持つ太宰鶴恵さんやインドネシア人看護師のフェルナンデスさんら〝常連〟も自慢の歌声を響かせた。太宰さんは聞く人の心を揺さぶるような声量の持ち主だ。紅白に分かれての歌合戦だが、ゲストのパフォーマンスも多彩そのもの。日本ケニア親善大使のアニャンゴさん(日本人女性)と長野の子供たちがケニアのリズミカルなダンスミュージックと踊りを演じ喝采を浴びた。
私はこの歌合戦に第1回から審査委員として関わっている。ロシア人のジェーニャさんも第1回から欠かさず紅組の司会を務めている。NHKのロシア語教室の講師も務めるジェーニャさんは、電話でしゃべればロシア人女性だとわからないくらい日本語が流暢だ。声量豊かな歌い手でもある。彼女には日本人の夫のとの間に2歳半の娘がいる。インドネシア人のフェルナンデスさんも日本人女性と国際結婚で、妻子が応援に駆け付けた。日本社会に溶け込む外国人はすでにあちこちにいる。
日本ではすでに、グルーバル化が進展し、多文化、多民族のとの共生が急速に進んでいる。国際結婚は珍しいことではなくなった。それに伴い子供に二重国籍を認めてほしいという声も高まっている。ジェーニャさんもそう語っていた。そのスピードについていけなかったのが、政治とメディアではなかったか。安倍政権は外国人労働者受け入れに伴う「共生」のための総合的対応策も明らかにするという。安倍政権ならでは「政治主導の施策」に注目したい。
石原 進