令和の時代の最大の課題は多文化共生社会の構築

令和の時代の最大の課題は多文化共生社会の構築

平成が終わり、令和が幕を開けた。新たな時代を迎え、メディアが様々な夢や展望、そして希望的な観測を打ち出している。5月1日の毎日新聞朝刊の1面コラム「余禄」は、年が改まって初めて過ぎた年を振り返る「初昔」という言葉を引用しながら、「人口減を宿命とする令和日本では外国人と共生する多文化型社会の創生が最大の文明史的課題となろう」と書いた。文明史的課題かどうかはともかくとして、「時代のことば」の当欄も、多文化共生社会の実現こそ、令和の時代の最大の課題だと考える。

佐伯啓思・京都大学名誉教授は3月29日の産経新聞の「正論」で平成の時代の3つのリスクを指摘した。「グローバル・リスク」「巨大震災リスク」とともに挙げたのが「人口減少リスク」だ。令和の時代に、人口減少リスクにどのように立ち向かうのか。佐伯名誉教授は「平成を通して先延ばしにしてきた将来の社会像を改めて描かなければならない」と言うが、将来の社会像とは「共生社会」にほかならないだろう。

日本の人口減少については、国立社会保障・人口問題研究所の人口推計が約50年後の2065年に日本の総人口が8808万人にまで減少することなど細かなデータを発表した。2015年の国勢調査の1億2709万人と比べると、4000万人も減ってしまう。しかも、高齢化率が26.6%から38.4%にまで上昇する。社会保障や年金制度は持ちこたえられるのか。消滅する市や町が相次ぎ、地域社会が崩壊するのではないか。

そこで人口減少時代の「助っ人」として期待されるのが外国人だ。政府は昨年秋の臨時国会で入管法改正案を成立させ、外国人労働者の受け入れ拡大に道筋をつけた。労働現場での人出不足の解消が目的だというが、同時に政府が必要だと考えているのが、外国人を受け入れる共生社会の構築だ。政府が閣議了解した「外国人材受け入れ・共生のための総合的対応策」では、施策として「外国人との共生社会の実現に向けた意見聴取・啓発等「生活者としての外国人対する支援」などを盛り込んでいる。

そもそも「共生社会」あるいは「多文化共生社会」とは何なのか。総務省は2006年3月に「地域における多文化共生推進プラン」を作成した。地方自治体の地域づくりの指針になるものだ。総務省の「プラン」の原案の作成に携わった山脇啓造・明治大学教授は多文化共生について「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、共に生きていくこと」と定義する。

在留外国人は273万人(2018年末)と過去最高を更新した。「特定技能」という新たな在留資格の創設でこの先、労働者として外国人が大幅に増える見通しだ。共生社会の構築は、地方自治体や外国人を雇用する企業、そして地域住民が現実の課題として突き付けられている。日々の生活の中で「異文化」「多文化」と日本人の付き合いが、すでにあちこち始まっている。外国人と日本人との間で、戸惑いや軋轢、トラブルも増えるかもしれない。

それをどう乗り越え、どのように差別や格差、分断のない社会を築くのか。国の多文化共生のきめの細かな施策はもとより、地域住民や企業の連携、さらには外国人との相互交流、相互支援が必要になる。「文明史的課題」の解決に一歩でも二歩でも近づくための努力が求められる。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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