「外国人との共生社会」構築という壮大な社会実験

「外国人との共生社会」構築という壮大な社会実験

「『外国人との共生社会』という時代にあって、入管庁の果たす役割はますます重要になっていくと思う」

月刊誌「文芸春秋」10月号に掲載された「時代を切り拓く〝異能〟の人びとの物語・令和の開拓者たち」のシリーズ。冒頭に紹介した言葉は、出入国在留管理庁(入管庁)の佐々木聖子長官の発言だ。

なぜ、佐々木長官が「令和の開拓者」なのか。2018年12月には改正入管法が成立し、政府は「外国人受け入れ・共生のための総合的対応策」を策定した。一連の法改正や施策のとりまとめを主導したのが佐々木長官だ。新たな在留資格「特定技能」の創設で外国人労働者の受け入れを拡大するとともに、政府は外国人との共生のための126の施策を初めてまとめた。令和の時代とともに日本は「開国」に舵を切った、というわけだ。

前身の法務省入国管理局は外国人の入国に関する許諾権を持ち、不法滞在者を摘発する権限をもっていた。改正入管法には、法の目的に「本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図る」との新たに一文を加えた。法律用語としての「外国人の在留の公正な管理」を突き詰めていくと、「外国人との共生社会」の構築に行きつくと思う。入管庁には、新たなミッションとして「共生」が課せられたのだ。

しかし、大手メディアは改正入管法に関して外国人労働者の受け入れ拡大を「歴史的な政策転換だ」として大きく報じながら、なぜか「在留の公正な管理」→「共生社会の実現」にはほとんど触れなかった。その意味では「文芸春秋」の記事は、異色の女性官僚としての佐々木聖子氏の人物像を紹介しつつ、法整備の進め方や「入管庁が果たす役割」に言及したことは大きな意味がある。

ここで同誌の詳細を紹介する余裕はないが、記事の最後で入管法改正時の法務事務次官で現東京高検幹事長の黒川弘務氏がこう言っている。「それを決める壮大な社会実験といってよい。失敗すると開国はしばらく頓挫する。成功するかどうかは、佐々木の舵取りにかかっている」。共生社会が実現できるかどうか。その成否を入管庁という新たな役所が握っているということだ。

ところで、入管庁は「共生社会」の構築に向けた新たな任務を遂行するために本庁内に在留管理支援部を設け、全国8つの地方出入国在留管理局と3つの支局に外国人の受け入れ環境調整担当の総括審査官を配置した。政府の総合的対応策の共生分野の施策について政府内の調整役などを行うのが仕事だ。

一方、政府の取り組みとは別に270万人を超える在留外国人との交流はすでに様々な形に始まっている。留学生が日本語を習う日本語学校では、1983年の「留学生10万人計画」以来、日本語教育だけでなく様々な生活支援を留学生に行ってきた。これを「共生」と呼ぶのかどうかはともかく、そうした交流の積み重ねの上に共生社会が構築されてきたはずだ。日本型移民政策の「壮大な社会実験」への取り組みはまだ緒についたばかりだ。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

4月
19
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 19 @ 10:00 AM – 11:00 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会『実践に基づく「やさしい日本語」の論点整理』 [日 時] 4月19日(土)10:00~11:00(オープン 9:40)※日本時間   [対 象] 日本語教育関係者、多文化共生に関心のあるすべての方   [定 員] オンライン:250名 ※ 先着順、定員になり次第締め切ります   [参加費] 無料 ※ 要予約、前日(4/18)17 時までに招待 URL を送ります   [講 師] 岩田 一成 先生(聖心女子大学)   [内 容] 『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)を解説します。 10 年以上実践活動に関わって来て、まだまだ一般の人に「やさしい日本語」の理念は広がっていないなあと感じています。 病院関係者は英語志向が強いですし、学校のお知らせは規範に則って冗長なあいさつが冒頭部分を占領しています。 そして国や自治体の文書は細かい・抽象的・長い・硬い…といろいろなクセがあります。 これらは場面別にストラテジーを練る必要があると考えています。その際に大事な論点がいくつかあります。 ・「やさしい日本語」は話し言葉と書き言葉で別物である ・悪文追放は本来「やさしい日本語」運動とは無関係である ・メッセージの内容や社会制度が文章に強く影響を与える そんなお話をしたいと考えています。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井) E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※ 下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/19)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 お申込みフォーム→https://forms.gle/8A4mTHwVKRaUG3Y39
4月
27
4:00 PM オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
4月 27 @ 4:00 PM – 7:00 PM
オンライン読みもの作成入門講座 概要 NPO多言語多読が作成した多読用読みものがどうやって作られているかを知り、実際に小グループで作る体験をしていただきます。初級学習者と中級学習者向けの2つの読みもののリライトを扱います。 ≫ 過去の報告を読む 講座の内容 多読用読みものの現状 多読用読みもののレベル分けについて 求められている題材とは? 初級向け、中級向けの多読用読みもの作成体験 作成した読みものへのフィードバック ※内容は参加者に合わせて変更することがあります 参加対象者 多読用読みもの作りに興味をお持ちの方 多読授業をやっている方で、ご自分の現場に合わせた読みものを作成したい方 NPO多言語多読の読みもの作りに参加したいとお考えの方 基本的に多読について知識がある方を対象にしていますが、多読について知識がない方は事前にご相談ください。
5月
16
5:00 PM 【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
5月 16 @ 5:00 PM – 6:30 PM
日本語探究に関するレクチャーと「中高生日本語研究コンテスト」についての説明を行います。 次のような方におすすめです! ・「中高生日本語研究コンテスト」に関心をお持ちの中高・特別支援・義務教育学校の先生。 ・探究を担当されていて、生徒に様々なコンテストを紹介している先生(教科不問)。 ・日本語好きな生徒を担当している先生。 講師:田中 牧郎(明治大学)/ 村上 敬一(徳島大学)/ 又吉 里美(岡山大学)/ 岩城 裕之(高知大学) お申し込み:https://forms.gle/x8FvkXyzXAZDpR4n7 コンテスト専用サイト:https://www.junior-jpling.org/

注目の記事

  1. 「多文化ビジネス」に挑戦する株インバウンドジャパン 外国人向けの不動産事業で成功 在留外国人が…
  2. 新年を迎えて 2024年は日本語教育の大変革の年 日本語教師は新たな自己改革を 2024年…
  3. 日本の移民問題を外国人ジャーナリストが語る国際ウエビナー オンラインで30日に開催 日本の外国…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate