ここまできた大学の国際化 バングラディシュの元留学生が市立大学長に
ここまできた大学の国際化 バングラディシュの元留学生が市立大学長に
2008年6月に政府が「留学生30万人計画」を打ち出して間もなくのころ、文部科学省のある局長に「30万人計画」の狙いを尋ねた。局長からこんな答えが返ってきた。
「大学自体の国際化です。民間企業を見てください。外国人が社長や取締役になっている時代です。それに比べて大学は相当遅れています。外国人の理事すらいないのです」
カルロス・ゴーン氏が日産自動車の最高経営責任者になったのは2001年6月だ。確かに民間企業には外国人の取締役が増えていた。それに比べて、大学は……という話に「なるほど、そうなのか」と納得もした。それでも、「30万人計画」は外国人留学生を増やすのが目的だという先入観を持っていたので、局長の話にやや戸惑ったのを覚えている。確かに当時は外国人の教授はいたが、学校経営に関わる外国人はいなかったように思う。
日本語学校の教師らが留学生に推薦したい進学先を選ぶ「日本留学アワーズ」。2019年度の報告書がこのほど刊行された。その中の「日本語学校卒業生インタビュー」の記事にバングラディシュ出身の元留学生、アハメド・シャハリアルさん(54)が登場した。アハメドさんは、来春開学する新潟県の三条市立大学(仮称)の学長に就任する予定だ。
アハメドさんは1966年生まれ。1988年に来日。カイ日本語スクールで日本語を学んだあと、拓殖大学工学部電子工学科を経て、2000年に東京電機大学大学院で博士号を取得。その後、同大学の専任講師、新潟産業大学助教授、さらに沖縄科学技術大学院大学で技術移転のプログラムマネージャーなどを歴任。その高い能力を認められ三条市立大の学長に抜擢された。
三条市は新潟県の中央部に位置する人口約10万人の小都市だ。隣接する燕市とともに包丁や工具など金属加工が盛んな地域。地元中小企業との産学連携を通じて学びの場を地域全体に広げようと、市立大学を開学することにした。地域産業の活性化が狙いだとしても、地方都市としては随分、思い切った決断だ
アハメドさんはインタビューに答えて、新たな大学づくりについて次のような抱負を述べた。強い問題意識と自らへの自信にあふれた発言だ。
「日本では大学設立にあたり、都市も地方も同じ基準で審査されますが、本来は役割が違うはずです。『人をつくる』のは同じですが、地方ではその役割を守りつつ、地域の魅力やリソースを取り出せるかが鍵となります。そのためには地域の人や企業の協力が必要です。協力と言っても『大学に言われたから協力する』のではなく『企業が自分たちのために大学に協力している』という考えにならなければ、本当の意味で地域に密着した大学にはなりません……我々が作ろうとしている大学は、キャンパスの外にいる実務系の人たちとの融合を目指しています。私には研究経験、教育経験、それに実務経験があるので、そこに私が関わる意義があると考えています。成功すれば、唯一無二の大学になりますし、地方大学のモデルにもなると思います」
大学の国際化を地域の活性化に繋げたい。そんな意欲を感じさせるコメントだ。最近では、
外国人の学者や研究者が大学の学長の起用されるケースが出るようになった。大学は生き残りのためタレントのような学長も採用している。ただ、アハメドさんのような留学生OBが大学を作りに参画し、その経営にも関わろうというのは過去に例がないのではないか。「留学生30万人計画」の新たな成果かもしれない。政府は留学生の数を増やすことから、大学の国際化を通じて質を高める方向に歩を進め始めたのか。
ところで、今年度の日本留学アワーズは、すでに日本語学校による「投票」が始まっている。今回は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、例年のような日本語教育振興協会主催の日本語学校教育研究大会のイベントの一つとしての表彰式は予定されていない。代わって9月下旬にオンラインによる表彰式を行いたいとしている。
石原 進