日本語教師の国家資格と日本語教育機関の評価の「報告案」を提示 第8回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

日本語教師の国家資格と日本語教育機関の評価の「報告案」を提示 第8回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

文化庁は7月19日、第8回日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(西原鈴子座長)を開催した。今回の会議では、前回の「報告概要案」を修正、加筆した「報告案」が提示され、日本語教師の資格の在り方や日本語教育機関の評価制度案の全容がほぼ明らかになった。今月29日に開かれる予定の第9回調査研究協力者会議で最終報告が提示され、その後のパブリックコメントの募集などを経て微修正される可能性もあるが、最終報告が決定されれば、それをもとに来年の通常国会に提案するための日本語教師の国家資格創設に向けた法案づくりに入る。

この日の第8回会議で示された報告案では、冒頭に「日本語教師の資格」に関して令和2年の文化審議会国語分科会の報告書の内容を掲載した。これは、今回の日本語教師の国家資格の在り方を考えるための「たたき台」とされたもの。ここには要件として①日本語教育能力を判定する試験の合格②教育実習の履修・修了③学士以上の学位――が盛り込まれた。

これに対して報告案では受験のための要件について、国語分科会の報告書に盛り込まれた受験資格などに修正を加え、現職の日本語教師に配慮して資格取得のための「ハードル」を下げた。試験は日本語教育の実践につながる基礎的な知識を測定する試験①と基礎的な問題解決を測定する試験②の2つの筆記試験で構成されているが、すでに日本語能力試験に合格するなどした日本語学校の教師に関しては筆記試験①に加え必要とされていた教育実習も免除する、としている。

また「学士以上の学位」の要件も削除した。これにより大学を卒業していない日本語教師も受験ができるわけだ。試験は年1回以上、試験が行われる会場は「全国各地」とされ、複数の会場が設けられることなった。

一方、試験の実施機関については「文部科学大臣に代わって試験・登録業務を行う機関」を新たに設置する。試験問題の作成から試験の実施まですべての責任を負う機関を想定している。どのような実施機関を設置するのかが、今後の大きな焦点となる。

今回の報告案で大きく加筆されたのが「指定日本語教師養成機関」。これについては国語分科会が平成31年にまとめた「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版」で履修・修了項目を示している。日本語学校で留学生に日本語を教えるには、日本語能力試験に合格するか、指定の教育機関で420時間の研修を受けることなどの要件が必要だが、報告案では「指定日本語教師養成機関」として改めてその在り方を整理した。この点については深く議論されていないが、審査項目などが具体的に示された。

報告案で「日本語教師の資格」とともに課題として取り上げたのは「日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組み」だ。国家資格を創設する以上、日本語教育機関の位置けやその教育水準をわかりやすくすることが必要だ。そうした問題意識のもとで文化庁は「留学」「就労」「生活」の3類型を提示した。

 

ただ、水準の維持・向上については、基本的に支援の在り方の案を示しているだけだ。報告案の「はじめに」でその性格について、「仕組みの制度化に当たっての大きな方向性を提示し、その実現を通じて日本語教育の質の更なる向上をめざすもの」と書いている。文化庁としては、あくまで「大きな方向性」を提示したとの認識だ。

このため施策の中には、今後の検討課題に留まっているケースが目立つ。日本語教育の推進のための政府の取り組みの責任分担が書き込まれているわけでもない。なお課題は山積している。日本語教育の進展には重要な報告書案だが、今後は日本語学校や業界団体、さらに教材作成の出版社など関連業界も巻き込んだ、幅広く丁寧な議論が必要だ。

*第8回の協力者会議に提出された「日本語教育の推進のための仕組みについて ~日本語教師の資格及び日本語教育機関評価制度~(報告案)」は以下のURLで見られます。報告案の赤字は修正、加筆箇所。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/93245902_03.pdf

にほんごぷらっと編集部

にほんごぷらっと編集部にほんごぷらっと編集部

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の編集部チームが更新しています。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

4月
19
10:00 AM 凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
凡人社オンライン日本語サロン研修... @ オンライン
4月 19 @ 10:00 AM – 11:00 AM
凡人社オンライン日本語サロン研修会『実践に基づく「やさしい日本語」の論点整理』 [日 時] 4月19日(土)10:00~11:00(オープン 9:40)※日本時間   [対 象] 日本語教育関係者、多文化共生に関心のあるすべての方   [定 員] オンライン:250名 ※ 先着順、定員になり次第締め切ります   [参加費] 無料 ※ 要予約、前日(4/18)17 時までに招待 URL を送ります   [講 師] 岩田 一成 先生(聖心女子大学)   [内 容] 『やさしい日本語ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)を解説します。 10 年以上実践活動に関わって来て、まだまだ一般の人に「やさしい日本語」の理念は広がっていないなあと感じています。 病院関係者は英語志向が強いですし、学校のお知らせは規範に則って冗長なあいさつが冒頭部分を占領しています。 そして国や自治体の文書は細かい・抽象的・長い・硬い…といろいろなクセがあります。 これらは場面別にストラテジーを練る必要があると考えています。その際に大事な論点がいくつかあります。 ・「やさしい日本語」は話し言葉と書き言葉で別物である ・悪文追放は本来「やさしい日本語」運動とは無関係である ・メッセージの内容や社会制度が文章に強く影響を与える そんなお話をしたいと考えています。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井) E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※ 下記お申込みフォームかメールでお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「オンライン日本語サロン研修会(4/19)」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 お申込みフォーム→https://forms.gle/8A4mTHwVKRaUG3Y39
4月
27
4:00 PM オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
オンライン読みもの作成入門講座 @ オンライン
4月 27 @ 4:00 PM – 7:00 PM
オンライン読みもの作成入門講座 概要 NPO多言語多読が作成した多読用読みものがどうやって作られているかを知り、実際に小グループで作る体験をしていただきます。初級学習者と中級学習者向けの2つの読みもののリライトを扱います。 ≫ 過去の報告を読む 講座の内容 多読用読みものの現状 多読用読みもののレベル分けについて 求められている題材とは? 初級向け、中級向けの多読用読みもの作成体験 作成した読みものへのフィードバック ※内容は参加者に合わせて変更することがあります 参加対象者 多読用読みもの作りに興味をお持ちの方 多読授業をやっている方で、ご自分の現場に合わせた読みものを作成したい方 NPO多言語多読の読みもの作りに参加したいとお考えの方 基本的に多読について知識がある方を対象にしていますが、多読について知識がない方は事前にご相談ください。
5月
16
5:00 PM 【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
【教員対象オープン講座】中高生の... @ オンライン
5月 16 @ 5:00 PM – 6:30 PM
日本語探究に関するレクチャーと「中高生日本語研究コンテスト」についての説明を行います。 次のような方におすすめです! ・「中高生日本語研究コンテスト」に関心をお持ちの中高・特別支援・義務教育学校の先生。 ・探究を担当されていて、生徒に様々なコンテストを紹介している先生(教科不問)。 ・日本語好きな生徒を担当している先生。 講師:田中 牧郎(明治大学)/ 村上 敬一(徳島大学)/ 又吉 里美(岡山大学)/ 岩城 裕之(高知大学) お申し込み:https://forms.gle/x8FvkXyzXAZDpR4n7 コンテスト専用サイト:https://www.junior-jpling.org/

注目の記事

  1. 小説家を目指す日系ペルー人 山田マックス一郎さんが語る夢とは 山田…
  2. 日豪の友好の歴史を見直そう——日豪議員連盟が「穣の一粒」と「藤田サルベージ」で勉強会  …
  3. 日本語議連が総選挙後初の総会 政府の日本語教育の取り組みを議論 日本語教育推進議員連盟(柴山昌…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate