セサルの挑戦第7回 明治大・山脇ゼミのゼミ生と多文化共生を語る
セサルさんは、多言語コールセンター「ランゲージワン」(東京都渋谷区)の医療通訳であり、多文化共生推進ディレクターの肩書を持つ。仕事柄、多文化共生社会のあるべき姿について自分なりに深く考えている。そこでつながりができたのが明治大学国際日本学科の山脇ゼミだ。
ゼミを指導する山脇啓造教授は、総務省の有識者会議の座長として2006年に「多文化共生プラン」の原案を作成した。研究活動の傍ら、政府の外国人受け入れ政策に様々な形で貢献している。地方自治体の政策立案にも協力している。
私自身も山脇教授とは20年以上前から付き合いがある。山脇教授は官僚やジャーナリストなどとも幅広い人脈を持ち、市民団体などとも交流する。多文化共生の「現場」に精通した研究者だ。
このためゼミの活動もユニークだ。大学がある東京都の中野区役所とも交流。「やさしい日本語」のラップ動画を制作するなど先駆的な取り組みもしている。「在日外国人の視点」から発言をするセサルさんとの交流も、ゼミ活動の延長線上にあるようだ。
「セサルの挑戦」のインタビュー・シリーズでは、これまで多言語ビジネスを通じて知り合った人たちが多かったが、今回、初めてゼミの大学生が相手だ。インタビューに応じてくれたのは、ともに4年生で副ゼミ長の土橋成美さんと佐藤優香子さん。セサルさんと大学生が語った多文化共生とは?
(にほんごぷらっと編集長 石原 進)
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セサルの挑戦第7回 明治大・山脇ゼミのゼミ生と多文化共生を語る
セサル: さっそくご質問をさせていただきますが、お二人にとって山脇ゼミとはどういうところでしょうか。
土橋さん: 一人ひとりがそれぞれの強い想いや考えをもって、「多文化共生のまちづくり」という同じ目標に向かって活動できる場所です。
佐藤さん: 山脇ゼミは、多文化共生を推進していく一つのチームです。私の思いと合致した目標があってとてもやりがいがあるチームだと思います。
セサル: なぜそう思いますか。
佐藤さん: 私は小学校をドイツで過ごして、アジア人としてマイノリティであり、差別を経験したことがあります。ですが、周りがみんなそういう人ではなく、中に温かい言葉をかけてくれる人もいて、「こんにちは」の一言だけでも、気にかけてくれたときの気持ちがわかる経験をして、「私はここにいていいんだなぁ」という気持ちにつながったことを体験したことがあります。それから中学校時代に帰国して高校受験をきっかけに将来を見つめなおした時、御恩を返したい気持ちになりました。そこで日本にいる外国人の方々を見て、もしかして私がドイツにいたときと同じ気持ちになっているようであれば、日本を第二の故郷、自分たちの居場所とみてもらえるように何かしたいという思いがあったので、高校は国際教養科がある学校を選びました。
セサル: 中学校の時からその思いをもってその国際関係の高校へ進められるのはとても意識高いと思います。私は中学校時代の自分を思い出す恥ずかしくなります。
佐藤さん: いやいや、高校で自分だけが多文化共生についての熱量が違うと思っていたこともあるのですが、山脇ゼミでは、ゼミ生みんなが多文化共生についてとても意識が高く、高校の時に私が感じた多文化共生への熱量が全然足りていなかったと思わせられます。
セサル: なるほど、佐藤さんが思っていた多文化共生への思いがとても高かったものの、山脇ゼミに入ってゼミ生は佐藤さんと同じぐらい、または佐藤さんより多文化共生への思いがあったと感じたのですね。実は、ここに来ると私も佐藤さんと同じような気持ちになるのです。本当にゼミ生が多文化共生について持っている思いがとても高くて、企業で給与をもらいながら気持ちでは負けていることを感じることもあるのですよ。
(左・佐藤さん 右・土橋さん)
次の質問をさせてください。
多文化共生において山脇ゼミではどういう目標がありますか。
土橋さん: 単刀直入に言うと良い意味で多文化共生がなくなればいいと思っています。
セサル:それはどういうことでしょうか。
土橋さん: 「多文化共生」というのは、疎外感を感じている外国人がいて、分かり合えない環境があり、その問題を改善しようとして生まれた言葉だと思いますが、本当の最終形態はその言葉がなくても生きていける世界だと思いますので、そういう世界に貢献することを目標にしています。
佐藤さん: 先日「ちえるあるこ」というイベントを開催しました。「ちえるあるこ」はエスペラント語で虹を意味します。その由来を説明しますと、違う言語の人たちもそこが居場所になるように、という思いで名づけました。そこでは協働ということをキーワードにしていまして、国や国籍を超えて全員で日本社会を支える、当たり前の世界を作ることをゴールにしています。
セサル: 私は高校の時にソクラテスの哲学にはまり、いくつもの名言を覚えたのですが、お二人の話を聞くと一つ思い出します。「私はアテネ人ではない、ギリシア人でもない。私は世界の市民だ」という言葉です。まさにソクラテスが描いていた世界と同じであると。そこで、次の質問ですが、先ほどお伺いしたロングタームゴールは多文化共生がない世界と理解しました。しかし、その世界を現実にするために「多文化共生」という言葉をよく使います。「多文化共生」を自分なりに簡単なフレーズに置き換えてください。
佐藤さん: 国の違いを超えて一つの社会を作ること。
土橋さん: 日本人、外国人ひとりひとりの協働で作る社会。
セサル: ちなみに、日本を変えていけるかもしれない。多文化共生への意識が高くなったのはいつ事からでしょうか。お二人にとってターニングポイントはいつでしょうか。
佐藤さん: 高校から多文化共生に関連する活動していましたが、山脇ゼミに入ってから行政、民間もかかわっていることをより深く知り、山脇ゼミで行っている「やさしい日本語」の取り組みが行政でも、学校でも必要とされていることがわかったときに理想が現実になったことを体験したので、そこがターニングポイントになったと思います。
土橋さん: 自分が日本を変えられるか正直わかりませんが、自分の発言が影響を及ぼすことができることを体験したのは、数年前にアメリカミネソタ州で白人の警察官が膝で黒人男性のフロイドさんを取り押さえて死亡した事件の時です。日本でもメディアに報道され、アメリカで起きている人種差別の現実を見てとても悲しくなり、自分の意見をSNSで発信したら、同じような学生から反応があって、私の発言でその人の気づきになったと言ってくれました。その時が、私のターニングポイントだと思います。
セサル: あるスペイン語の番組で2,000年前の人を1980年に連れてきても生活に慣れることはできる。しかし、同じ人をたった42年後の2022年に連れてきても慣れることはできないだろうという発言がありました。まさに、SNS、インターネットを通じたコミュニケーションツールを使った時代ですね。佐藤さんも土橋さんも山脇ゼミ以外で多文化共生に関する関わりはありますか。
土橋さん: 山脇ゼミに入る前に1年半ぐらいNPOでボランティアとして日本語を習いたい外国人に対して日本語を教えていました。
佐藤さん: 高校の時に入っていたインターアクトクラブで国際交流とボランティアを柱とした活動を行っていました。そこでは、多文化共生というワードを使ったイベントではなかったのですが、多文化交流のイベントを開催していました。また、現在アルバイトしている職場では、外国人のお客様がいらっしゃるときに今までに得た知識を使ってほかの従業員に外国人との接し方等を教えています。
セサル: 私が会社で多文化共生推進ディレクターという肩書で行っていることを行っているわけですね。
土橋さん: 私達だけではなくて、山脇ゼミのメンバーは、それぞれ家族や他のコミュニティの「多文化共生担当」みたいな感じになりやすいよねって、みんなで話したことがあります。
セサル: まさに多文化共生担当ですね。もう一つ質問です山脇ゼミで行ってきた、参加してきた多文化共生に関するイベントを教えていただけますか。
佐藤さん: 11月20日に行われた東京都主催のダイバーシティ・プレゼンコンテストに山脇ゼミが参加して、最優秀賞を受賞しました。
セサル: おめでとうございます。
佐藤さん: ありがとうございます。
セサル: どんなコンテストでしたか。
佐藤さん: テーマは「ダイバーシティ&インクルージョン ー大学生が考える東京の未来ー」でした。実は、私たちも2021年のコンテストに出場し、最優秀賞をいただきました。そして、そこで提案した企画「ちえるあるこオリンピック」の実現を目標に、2022年1月から国籍関係なくメンバーを募集しました。1月から3月まではコロナの関係でオンラインミーティングを毎週実施して、4月からは対面ミーティングを行いました。その時に多国籍のメンバーにもキャンパスに来ていただいてイベントの準備を行いました。イベント自体は11月12日に行われて私は成功したと思います。
セサル: なぜそう思いますか。
佐藤さん: 通常の国際交流イベントは日本人がホストとなり、外国人住民をゲストとしてイベント当日のみにお声掛けして、参加してもらうことが多いと思いますが、私たちは9か月間に及ぶ準備にも「仲間」として外国人住民に参加いただいて、みんなで協働して作り上げた企画が当日たくさんの人に届いたと感じた為です。多文化共生の理想的な形になったと思います。
セサル: 心からその発想をすごいと思います。私もそうですが、ゲストのみの参加だけではなく、準備する側に外国人住民が入ることでつながりができて、仲間意識が芽生えると思いますので、そのイベントは本当に素晴らしいとおもいます。
土橋さん: ありがとうございます。私たちはこのイベントを企画している間にいろんなことを議論しました。その一つが、「ちえるあるこ」に参加していただいた方々に多文化共生について興味をもっていただいて、このイベントをきっかけに多文化共生を広げてくれることが最短な方法であるということに気が付きました。
セサル: そこに気が付けたことが非常に大きいと思います。私も土橋さんが言うように外国人住民に当日のみの参加だけではなく、主催者側にも参加してもらうことが多文化共生を広げることが最も有効的なことであると思います。私自身の経験をもっとお話ししたいのですが、本日のインタービューのためにとっていただいた時間があっという間に終わってしまったので、別の機会にもっと山脇ゼミ、皆様の思いについて聞かせていただけるとありがたいです。今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
【セサルのひと言】:
私が通っていた静岡県の沼津工業高等学校に、どれだけ恩を返したくても返しきれない先生がいました。数学の國定先生です。私が入学したときは世の中に対して少しだけ反抗していた時期に出会いました。先生に「何で1たす1は2なのか」と冷やかすために尋ねたことがあります。約20分かけて壁の幅がある黒板2枚分書いて、丁寧に説明いただいた記憶があります。その答えは覚えていませんが、これがきっかけで私が心を許した数少ない人の一人になりました。また、國定先生の影響でその頃から哲学にはまり、嫌いだった勉強が好きになりました。國定先生との出会いが私の人生を大きく変えたと確信しています。
土橋さん、佐藤さんの話を伺って思ったのですが、優秀なお二人の学生にとって山脇先生は私にとっての國定先生のような存在だろう。22歳で社会のスタートラインに立つ山脇ゼミ生たちが多文化共生の知識と経験を得て社会に旅立てるのは、大きなアドバンテージになるでしょう。そして、多文化共生社会を築く素晴らしい人材が山脇ゼミのような学窓から育っていくのを実感しました。先生が多文化共生を学ぶ環境をつくり、学生たちはチーム一丸となり、一つ一つの目標を目指していく姿に感動すらおぼえます。日本の未来が見えてくるようです。
山脇ゼミの皆様を心から応援し、一緒により良き多文化共生社会を作っていきましょう。