「『素顔の国際結婚』の今」を読んで 国籍法と国際家族のあり方を考える

「『素顔の国際結婚』の今」を読んで 国籍法と国際家族のあり方を考える
まず、家族へのひときわ強い愛情があった。そして、祖国への熱い思いもあった。さらに、「国籍の壁」を乗り越えたい、という固い意志を感じさせた。国際結婚を考える会(JAIF)が編集した「『素顔の国際結婚』の今――世代をつなぐ国際結婚のリアル」(明石書店)を読んで、そんな気持ちが伝わってきた。
国際結婚を考える会は1979年に7人の女性が立ち上げた。当初は「国際結婚日本女性の会」だったが、翌年に現在の名称に改称された。国際結婚する日本女性がまだ少ない時代だった。国際結婚の増加とともに会員は増えたが、そのほとんどが女性だ。
当時、国際結婚をした女性の子どもは、日本国籍が取得できなかった。国籍法は父系血統主義で、子供は父親の国籍を持たねばならなかった。「なぜ、私たちの子供は日本国籍をもらえないのか。おかしいではないか」。国際結婚を考える会は、そんな問題意識から出発した。
日本が女子差別撤廃条約を批准したのは1980年。それを受けて1984年に国籍法が改正された。その結果、子供の国籍取得が父系主義から両系主義に変わった。時代の流れと、考える会の思いが国に重い腰を上げさせた。
その後、考える会は1986年に「素顔の国際結婚」という本を出版した。35人の会員のエッセイをまとめたものだが、そこには言葉や文化の違いを克服し、バイリンガル、バイカルカルチャーの子供を育てる苦労や喜び、アイデンティティーの問題、新たな世界に発見。国籍に失うつらさなどが描かれた。
約40年後に出版された「『素顔の国際結婚』の今」は、その続編だ。欧米や韓国、中国などアジアの会員も筆をとった。さながら国際家族の博覧会だ。この本の帯に「伝えたい、書きとめておきたい」とあるように、一人でも多くの人に国際結婚の現状を理解してもらいたい、という強い意志が感じられる内容だ。
そこで、なお課題として残っているのは国籍法の問題だ。日本で生まれ育ち、日本人同士が結婚した人にとっては、国籍法は縁遠い法律だ。だから多くに日本人に自分たちの考えを伝え、理解を得るには、相応の努力と忍耐が必要になる。考える会は2001年から20年以上にわたって国会に国籍法改正の請願活動を行っている。祖国への里帰りに機会に国会議員を訪ね、法改正への理解を求める地道な活動だ。
最も問題視しているのは、国籍法11条1項だ。「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得した時は日本の国籍を失う」という条項によって、国籍を失ってしまう人が後を絶たない。法律を知らない方が悪いといってしまえばそれまでだが、11条1項の条項を理解せず他国の国籍を取得するケースが多い。国籍を喪失した子は10万人というから決して少ない数ではない。
国籍法11条1項は「本人の意思を無視して国籍を剥奪するのは違憲だ」として訴訟を起こした在外邦人もいる。この法制度に対して、国籍を失った人たちの悔しさ、やるせなさを込めた訴訟だ。同書には、国籍がなかったためコロナ禍の政府の水際作戦で配偶者に長期間会えなかったケースや、親の死に目に立ち会うことができなかったことなどが報告されている。
この問題は複数国籍の取得の議論も絡むため話が一筋縄にはいかないが、人口減少時代だというのに、いとも簡単に同胞から国籍を消滅させる法制度がいまも存続しているのはいかがなものか。そもそも国籍法は、明治憲法下で制定されたものだ。グローバル化、国際化が大きく進展する中で、すでに制度疲労が起きているのではないか。この問題は司法の場で争うだけでなく、国会を含む国民的な議論が必要だろう。
「『素顔の国際結婚』の今」の中で、ある女性が「日本以外に住むようになったからこそ、かえって日本をよく知り、自分にとってかけがいのない国という思いが強くなる人が大半だと思う」とも話している。私たちは、こうした思いにどう応えるのか。
にほんごぷらっと編集長・石原 進