木原官房副長官の講演を聞いて~日本語教育は共生社会づくりの「一丁目一番地」
木原官房副長官の講演を聞いて~日本語教育は共生社会づくりの「一丁目一番地」
木原誠二官房副長官が7月7日に日本語学校関係者を相手に「わが国の外国人受け入れ施策について」と題して講演した。官房副長官は内閣の要(かなめ)であり、木原氏の発言は岸田内閣のメッセージでもある。その木原氏は講演で日本語教育は政府の重要施策の「一丁目一番」だと強調した。木原氏の講演は、日本語学校関係者にとって大きな意味を持つものと言える。
講演会を主催したのは日本語学校の関係6団体。木原氏の講演は6団体でつくる日本語教育機関団体連絡協議会の事務局担当の森下明子さん(岡山外語学院)の個人的なパイプで実現したと思われる。木原氏はコロナ禍の政府の学生支援に日本語学校の留学生を加えることに尽力した。日本語学校に事情に詳しい政治家の一人だ。
内閣には事務と政務担当の2人の官房長官がいる。かつては官僚出身の事務担当の官房副長官が政府の政策をリードし、「影の総理」とも言われた。しかし、安倍政権以降は政治家主導で政治が行われている。木原氏は政務担当として岸田内閣を支え、政治を動かしているわけだ。
従って、文科省や入管庁の課長や局長クラスの講演とは話の観点が違う。省庁の担当者は各自の立場からしか発言はできないが、木原氏は内閣全体を俯瞰しながら考えを述べることができる。木原氏は講演で内閣の意思を伝えられるわけだ。
木原氏の講演のまとめを言えば、以下のような話になるのではかいか。日本は人口減少が進む中で、外国人労働者の受入れを増やさざるをえない。労働力が不足しては経済の維持、発展ができない。同時に多様な社会づくりを進める必要がある。そのためには日本語教育は政府にとって最重要の施策の一つだ。
約1時間にわたる講演では、ここ30年の日本経済の停滞ぶりを指摘し、世界的にマーケットが拡大する中で賃上げなどにより日本経済を活性化しなければならないと訴えた。岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の目的はそこにあるわけだが、将来的に問題なるのは労働力不足だ。人口減少による働き手が不足していては、経済が好転しない。
木原氏は人口推計から現在300万人いる在留外国人が2050年には600万人に、2070年には1000万人になるとの見通しを述べた。その結果、社会も大きく変化せざるを得なくなり、多様な共生社会の実現が不可欠になるとの認識も示した。
その際に大きな課題となるのは外国人と日本人の円滑なコミュニケーションだ。多言語対応も必要だが、木原氏は何より重要なのは日本語教育だと訴えた。「一丁目一番地」という言葉を繰り返し使ったのは、日本語教育の重要性を強調したいからだったと思われる。
さらに木原氏は、日本語学校は留学生の日本語教育のみならず外国人労働者や生活者のための日本語教育も視野に入れた取り組みが必要になるとの見通しを述べた。ビジネスチャンスが広がることも示唆した。日本語教育機関認定法の成立を受け、これから日本語学校を取り巻く環境は大きく変化するが、その機会を上手く利用すべきだという考えも示した。日本語学校の立場を十分に理解した話が多かったように思う。
ところで、私は日本語学校ネットワークの監事をしている関係で、先の総会後に開かれた意見交換会にも参加した。その場でおおむね以下のような発言をした。
①日本語教師は給与が安いと日本語教育推進議員連盟でも指摘された
②日本語教師の給与をアップさせるためには日本語学校の増収が不可欠。
③日本語学校の経営を良くするには受け入れる留学生を効率よく増やす必要がある。
④クラスの定員20人を25人にするとか、定員増の具体策を政府に働きかけるべきだ。
木原講演を聞いてその思いを強くした。日本語教師の給与の引き上げは岸田政権の「新しい資本主義」とも符丁が合う。6団体が政府に要求書を提出するなら教師の給与引き上げにつながる施策を掲げるべきだ。様々なメッセージが込められた木原講演で、日本語学校は政府との大きな「つながり」ができた。6団体は立場を超えて連携できることは、積極的に連携・協力すべきだろう。
にほんごぷらと編集長・石原 進