西日本新聞の連載企画「出稼ぎ留学生」がスタート

西日本新聞が7日朝刊で連載企画「新 移民時代第1部」の「出稼ぎ留学生」をスタートさせました。1面トップには「暮らしの隣『移民』100万人」の活字が躍り、社会面にも関連記事を掲載しています。「新移民時代取材班」を立ち上げ、2107年の目玉企画として本格的な連載をするそうです。

実は西日本新聞の記者が11月8日、参院議員会館で開かれた日本語教育推進議員連盟(日本語議連)の設立総会を取材するため訪れていました。福岡の本社から出張してきたその社会部記者から翌日、「議連の話を聞かせてほしい」と電話があり、後日、3時間にわたり議連発足の背景説明などをしました。その際、連載企画のことも聞いていました。

その記者から7日にPDFで1回目の連載記事が送られてきました。ホームページでは読めないそうですので、簡単に内容を説明しておきます。福岡では最近、日本語学校に通うネパールやベトナムの留学生が増え、彼らは日本語の勉強よりアルバイトに精を出し、地方経済を支える貴重な労働力となっています。記事は、運送会社の仕分け作業やコンビニ弁当の製造工場で働く留学生の姿をルポ風に描きつつ、もはや彼らの「違法労働」がなければ立ち行かなくなった地方経済の実情を紹介しています。取材班は、連載記事の狙いを次のように記しています。

「留学生や技能実習生を含む外国人労働者の数が今年、初めて100万人を突破する見通しだ。『移民政策』を否定する政府の建前と、不可解な労働力となっている現実――。九州の現場でそのひずみを直視し、共生の道を探る」

政府は移民政策をとらないと言いながら、移民労働者を受け入れているではないか。地方では制度と現実のひずみが色濃く表れている。こんなことでいいのだろうか。人口減少時代の労働力の不足は、どの都市も直面せざるをえない現実です。西日本新聞は、日本が突きつけられている問題を地方から問いかけているのです。

移民受け入れ論議は、1989年の入管法改正で日系人の3世までを「定住者」として受け入れるようになって以降、浮かんでは消え、消えてはまた議論される状況が繰り返されてきました。多くのマスメディアはその是非を論じ、賛否両論を戦わせながらも、議論を深化させてきませんでした。メディアの世界では、「移民とは何か」という突っ込んだ議論がないまま、言葉だけが躍り、欧州の移民暴動などもあって移民に対する負のイメージばかりが拡散されてきました。

その意味では、「労働現場の留学生」を通じて外国人受け入れ政策の問題点を指摘し、共生社会への展望を探ろうという西日本新聞の姿勢は、メディアとして一歩踏み込んだものだと言えるでしょう。様々な形の現実を掘り下げ、解決すべき課題を摘出してほしいと考えています。そして、制度と現実の乖離を埋めるために地方からの提言にも期待しています。

翻って、日本語議連には日本語教育の在り方に焦点を絞り、議論を深めてもらいたい。移民であろうが、留学生であろうが、私たちの周りには文化や言葉が異なる人たちが確実に増えています。彼らとの十分なコミュニケーションを図るための日本語教育は、日本の国際化を進めるための不可欠なツールです。その先にあるのが、多文化共生社会の実現というより重いテーマだと考えています。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
1月
31
10:00 AM 令和6年度生活指導担当者(初任)研修 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度生活指導担当者(初任)研修 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
1月 31 @ 10:00 AM – 5:30 PM
当協会では、日本語教育機関における生活指導担当者の能力向上を図るため、標記研修を実施しております。 今年度におきましても下記により実施しますのでご案内申し上げます。 「認定日本語教育機関に求められる外国人留学生の生活指導支援とは」をテーマに講義とグループワーク及び懇親交流ネットワーク会(任意参加))の三部構成としました。 日頃の業務課題の解決・モチベーションアップに、ぜひご活用ください。 1 日時 令和7年1月31日(金)10:00~17:30 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加要件 日本語教育機関又は大学等教育機関の現場において、 実際に留学生の生活指導に携わり、原則 3 年以内の者。 4 参加費 維持会員機関 8,800円(税込)/1人当たり その他の教育機関  17,600円(税込)/1人当たり 5 応募締切:令和7年1月10日(金) 6 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3245&f=news 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com

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