一等賞 走り続けるということ  中南財経政法大学 張君恵

テーマ「忘れられない日本語教師の教え」
走り続けるということ 中南財経政法大学 張君恵

「私の言葉を世に届けたいというキミの気持ちは、そんなものだったんだね」。中村先生の言葉が心に突き刺さった。それとともに、この半年のできごとが頭の中に、次々に浮かんでくる。

私は昨年の第12回作文コンクールで、思いがけず一等賞をいただいた。段躍中先生が言うとおり、一編の作文が私の人生を劇的に変えた。一等賞のおかげで、日本大使や上海総領事をはじめ、たくさんの方々と出会い、私の世界はどんどん広がっていった。

北京のステージで、世の中に中村先生の声を届けたいと大きな声で紹介したネットラジオ番組「中村ラジオ」も、あれから順調に成長している。この1年間で登録リスナー数は1万人も増え、3万3千人になり、番組の総再生回数は314万回を上回った。初めて会った人がラジオの大ファンだったなんてこともよくあり、中村先生を知っている人が爆発的に増えた。

私も人から紹介を受けるたびに「全国一等賞」と言ってもらえるようになった。頑張ることが嫌いだった私は、頑張る意味を知り、一生懸命に頑張った結果、大きなご褒美を手にした。達成感って、こんなに気持ちがいいものなんだ。なんだか万事うまくいっているような気がしていた。

そして、今年もこの季節がやってきた。第13回作文コンクールのスタートだ。私の作文が掲載された作品集を読んで、自分の作文もぜひ本に載せたいと、後輩たちは、さらに気合が入っている。この調子だと100作品提出も問題なさそうだ。今年の5月は後輩に作文の書き方でもアドバイスしながら、ゆっくり過ごそうと思っていた。

ところが、中村先生の言葉は、私を一瞬で凍り付かせた。「今年も書いてね。いい作文を期待しているよ」。いつもの明るい声で、先生は今年も作文を書くように言った。私はその場で断った。去年の一等賞で、先生の言葉を世の中に届けるという目的は達成できたと思ったからだ。

すると先生は静かに言った。「私の言葉を世に届けたいというキミの気持ちは、そんなものだったんだね」と。いいえ、決してそういうわけじゃない。いつまでも先生の言葉を届けていきたいと思ってる。でも……。

「作文はコンクールのためだけに書くものなの? 思いを伝えるために書いたって、自分が北京で言ったんでしょう。まだチャンスがあるのに、どうして書くことをやめてしまうの?」。その通りだ。去年までの私ならきっと目を輝かせて、作文を書く準備を始めたことだろう。でも、今の私にはコンクールに参加する勇気がなかった。二年連続で一等賞に選ばれた人なんて誰もいないのだ。何もしないで、ずっと第12回の一等賞のままでいたかった。

「普通は一等賞をとれば、その次は参加しないだろうね。でもね、過去にしがみついている自分を壊し、それを乗り越えなくちゃ、もっと大きな自分には出会えないよ」。先生はいつものように、私の目をじっと見ながら力強く言った。

ぐずぐず立ち止まっている私を尻目に、先生はずっと走り続けている。ミニブログやウィーチャット(微信)の一言日記を怠らずに毎日更新し、コメントには一つ一つ丁寧に返事を書く。おもしろいアイディアが次々にわき出し、新しい企画をどんどん打ち出している。

とうとう「中村チャンネル」を立ち上げ、生放送のトークショーやビデオの世界にもデビューしてしまった。最近では作文コンクールのPR番組まで作って、世の中にせっせと作文コンクールを宣伝している。

急いで追いかけなきゃ。先生の言葉を世の中に届けるのは私の役目なんだから、いつまでも過去の栄光にしがみついてはいられない。そう覚悟を決めたら、ババンっと未来に立ち向かっていく勇気が出てきた。

確かに一編の作文で私の人生は変わった。ならば、もう一編の作文で私の人生はさらに大きく変わるはずだ。もう何も迷わない。これからも私はこの世の中に中村先生の言葉を伝えていく。先生の熱い言葉をみんなが待っているのだから。

(指導教師 中村紀子、森田拓馬)

張君恵(ちょう・くんけい)

1991年、湖北省出身。中南財経政法大学外国語学院大学院2年。この作文コンクールへの参加は前回(第12回)に続いて2回目で、受賞も2年連続の1等賞受賞となった。本コンクールで連続しての1等賞受賞は初の快挙。受賞の感想は「大変うれしく思う。実は、昨年思いがけず1等賞をいただき、達成感からか何かに挑戦する気持ちをしばらく失くしていた。その時、臆病になった私を励まし、もう一度挑戦する力を与えてくれたのが中村紀子先生だった。また作文の奥深さについて指導くださった照屋慶子先生にも感謝の意を表したい。これからもこの気持ちを忘れず、何事にも勇気を持って挑戦していきたい」。現在は大学院に通いながら、引き続き中村先生のネットラジオ番組「中村ラジオ」の制作に携わっている。

 

※本文は、第13回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」(段躍中編、日本僑報社、2017年)より。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

 

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留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
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日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
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12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
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本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
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教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
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ビジネス日本語研究会 第38回 研究... @ オンライン(ZOOM)
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テーマ:ビジネス日本語における「チームワーク」を考える 現在、外国人材を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。日本で働く外国人労働者の増加、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度の創設などにより、インクルーシブな職場づくりの重要性が増しています。そこで、第38回ビジネス日本語研究会では、「チームワーク」をテーマとします。経済産業省が提唱した「社会人基礎力」のひとつである「チームで働く力」を、インクルーシブな職場ではどのように考えるのか、日本企業で採用に関わる方々のお話も伺いながら、「チームワーク」について、様々な視点から考えます。当日は多くの方にご参加いただき、活発な議論、意見交換が行われることを期待しています。 また、併せて研究発表を実施いたします。

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