「やさしい日本語」を海外に――議論の拡大、深化を期待する

「やさしい日本語」を海外に――議論の拡大、深化を期待する

学習院女子大学国際交流文化学部が主催して2月17、18の両日開かれた「<やさしい日本語>と多文化共生シンポジウム」。この中で「やさしい日本語」というキーワードが様々な意味を含んでおり、多文化共生社会とも大きな関りがあることが指摘された。シンポの概要と意義については先にこの欄で吉開章氏が詳しく報告したので、ここでは「やさしい日本語」のもう一つの可能性について考えてみたい。

当ホームページ「にほんごぷらっと」を開設したのは昨年9月。超党派の日本語教育推進議員連盟の議論を広く共有することをミッションとしたフェイスブックに加え、新たに「日本語教育の広場」としてのホームページを設けたわけだ。「にほんごぷらっと」には3か月余りでアクセスが1万に達し、中国、台湾、ベトナムなど海外からのアクセスも出始めている。

これまでの取り組みを通じて、日本語教育が想像以上に幅広い分野に関わっていることを実感している。留学生の進学のための日本語学校、地域のボランティアの日本語教室、さらには夜間中学も含めた公教育の中の日本語教育など形態や目的も多種多様だ。

日本語教育推進議員連盟が日本語教育推進基本法(仮称)の制定を目指して日本語教育の議論を始めている。政治の世界の限られた時間の中の議論だけに、その対象となる日本語教育の範囲も絞られてしまい、日本語教育の分野でまだ位置づけがはっきりしていない「やさしい日本語」について十分な議論が行われたとは言い難い。

そうした中で、今回のシンポジウムで様々な角度から「やさしい日本語」が議論された意義は大きい。今後は、より深く議論されていくテーマだと思う。とりわけ庵功雄一橋大教授が提唱している多文化共生社会の実現のための<やさしい日本語>という視点は重要だ。<やさしい日本語>を通して多文化共生を考えることで、新たな「気づき」を生み、豊かな社会づくりにつながるはずだ。

ただ、ここでは、シンプルな日本語としての「やさしい日本語」の方に着目したい。外国人にとって簡単に学べる日本語のことだ。その「やさしい日本語」を学ぶ目的は、日本語能力試験に合格するためでない。日本文化に親しむための「入り口」としてのシンプルな日本語である。多文化共生の礎となる<やさしい日本語>は、あくまで国内向けだが、海外の人たちが親しめる「やさしい日本語」も必要だと思う。


というのは、日本のアニメや漫画、ゲームが海外の多くの若者の心を惹きつけている。アニメなどは、まさにクールジャパンの主役だ。日本留学の動機を「日本のアニメが好きだから」と話す留学生が少なくない。先にピックアップニュースでも取り上げたが、日本語ゲーム「旅行青蛙」が中国で350万人のダウンロードがあったという。中国の日本語教育機関の日本語学習者は100万人と言われるから、その3倍以上の人が日本語ゲームを楽しんだわけだ。中国以外のアジア、欧米でも日本のアニメなどの人気はすこぶる高い。

そうしたマニアたちが親しみ、学びたくなるような「やさしい日本語」が必要ではないか。さらに言えば「やさしい日本語」がクールジャパンのコンテンツとして活用できないものか。「日本語は日本国内で」という考えを捨て、海外での「やさしい日本語」の普及に力を入れれば、「日本語人口」は増えるに違いない。

日本の人口は急テンポで減少し、50年後には8000万人台にまで減少するという予測がある。日本の人口の急激な減少傾向は、政治の力をもってきても回避できるものではない。しかし、海外の日本語人口を増やすことは可能だ。海外の日本語人口は、日本語という言葉を通じて文化や経済の交流を促進してくれる。衰退しつつある日本の国力を支えてくれるかもしれない。

そのためのツールとしての「やさしい日本語」の活用に関して議論を深めてもらいたい。研究者の皆さんには、より掘り下げた研究を期待したい。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
11月
22
7:00 PM 教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
11月 22 @ 7:00 PM – 12月 13 @ 8:30 PM
※この講座の内容は2022年実施分に準じます。 教室内談話: 学習者間相互交流とL2学習を考える 学習者同士が互いに話し合う活動は、近年の外国語(L2) 教室には不可欠です。また、学習者同士 が学習言語で対話する活動の意義やL2 習得における効果は、外国語教育において興味深いトピッ クの1 つです。本講義では第二言語習得理論を適宜参照しながら、外国語教室で行われる学習者同 士の対話の意義や先行研究で明らかになっている効能、より効果的な実践法や課題と展望について 考察を深めます。 【全4回】 日程: 第1回:2024年11月22日(金)19:00-20:30 第2回:2024年11月29日(金)19:00-20:30 第3回:2024年12月6日(金)19:00-20:30 第4回:2024年12月13日(金)19:00-20:30 内容: 第1回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語習得理論 第2回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語学習 第3回:「学習者同士のL2 対話」と教師 第4回:「学習者同士のL2 対話」とこれからのL2 指導 【受講料】9,000円(税込)※1講座のみお申込み:2,500 円(税込)
11月
30
1:00 PM ビジネス日本語研究会 第38回 研究... @ オンライン(ZOOM)
ビジネス日本語研究会 第38回 研究... @ オンライン(ZOOM)
11月 30 @ 1:00 PM – 5:00 PM
テーマ:ビジネス日本語における「チームワーク」を考える 現在、外国人材を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。日本で働く外国人労働者の増加、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度の創設などにより、インクルーシブな職場づくりの重要性が増しています。そこで、第38回ビジネス日本語研究会では、「チームワーク」をテーマとします。経済産業省が提唱した「社会人基礎力」のひとつである「チームで働く力」を、インクルーシブな職場ではどのように考えるのか、日本企業で採用に関わる方々のお話も伺いながら、「チームワーク」について、様々な視点から考えます。当日は多くの方にご参加いただき、活発な議論、意見交換が行われることを期待しています。 また、併せて研究発表を実施いたします。

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