「外国人と進める地域の活性化」国際ワークショップで各地の取り組みを共有
[基調講演を行う国際移住機関(IOM)のウィリアム・レイシー・スウィング事務局長]
「外国人と進める地域の活性化」国際ワークショップで各地の取り組みを共有
外務省と国際移住機関(IOM)が主催し、自治体国際化協会(CLAIR)が後援する、第9回外国人の受け入れと社会統合のための国際ワークショップ「外国人と進める地域の活性化」が1日、都内で開かれた。国際移住機関(IOM)のウィリアム・レイシー・スウィング事務局長は基調講演で、増加傾向にある国際移住者の現状と、様々な地域での取り組みを共有し、日本に移住する外国人との共生について、さらなる取り組みが必要であると述べた。
つづいて韓国忠清南道行政区特別制作アドバイザーのシム・ナリ氏は、海外識者の立場から、課題はあるとしながらも、韓国で国際移住者により地域が活性化した事例を共有した。忠清道地域の郊外では、国際結婚で移住してきた住人が農林水産業のGDPを押し上げ、ゲストハウスやレストラン、工芸品などの新たなサービスを生み出してきたこと、都市部では労働者として移住してきた住人がいわゆる「単純労働」の担い手となって活躍し、地元の店舗で消費をするため、地元住民から歓迎されている事例をあげた。
明治大学国際日本学部教授の山脇啓造氏がモデレータを務めるパネルディスカッションでは、岡山県美作市長の萩原誠司氏、北海道東川町立東川日本語学校校長の三宅良昌氏、三重県津市立敬和小学校教頭の金児由美氏、アールアドバンス株式会社代表取締役の綾戸高志氏がパネリストとして参加し、各地の外国人受け入れ事例を紹介した。
岡山県美作市ではベトナムのダナン大学と協定を結び、市の予算で日本語講師を現地に派遣する事業や、地元の企業で急増する技能実習生の相談に乗るためのベトナム語講座を開講するなど、積極的な海外交流を促進しながら、地域の労働力不足の解消と、地域からの理解を得るための努力をしてきた。萩原市長は「(外国人労働者は)文化社会の担い手でもあり、肯定的に捉えていくことが大切」と強調した。
町立日本語学校を運営する北海道東川町では、写真の町として30年以上も町をあげて国際交流を推進してきており、2009年から短期日本語研修を始めてきたのは自然な流れであったとした。部外者にも寛容な町の風土が育ってきたことを共有した。三宅校長は「町が経営する日本語学校を通して、町民に何を伝え、何を残すかが大切だと考えている」と意気込みを述べた。
児童の45%が外国にルーツを持つ子どもが通う三重県津市の敬和小学校では、外国人が定住するためには、子供が安心して通える学校が必要だとの考えのもと、小学校に転入する前に、市の職員と民間ボランティアによるマンツーマン指導で初期の生活日本語を3~4カ月かけて指導し、独自の津市版日本語能力把握スケールを用いて学習到達度をはかり、小学校生活になじめるような環境を整えている。また、自分のルーツや親を肯定する人権教育、母語の重要性を伝えることによるアイデンティティの形成を促している。
九州地方で外国人採用支援を行う企業の代表の綾戸氏は、地方の中小企業が人材不足に悩むが、外国人採用のノウハウや、受け入れの準備ができずに、九州で学ぶ留学生の多くが東京を中心とする都市部の企業に就職している実態を指摘し、特に外国人社員を雇用したことのない企業では、「採用目的の明確化、言語化、入社後のケアのためのメンター制度の設計が重要だ」と述べた。
「外国人と進める地域の活性化」で議論された事例は、日本の縮図であり、規模の大小にかかわらず、すでに各地で様々な取り組みが行われ、そのケーススタディが蓄積されてきたことを示した。しかしながら、それは地域が抱える人口減少問題や意図せぬ外国人住人の急増に伴い、それぞれのやり方で努力を続けてきた結果である。いよいよ日本として、歯止めのきかない人口減少と、その抑制に寄与している国際移住者に対し、社会統合など包括的な政策を示さねばならない時期が来たようだ。