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町立日本語学校が起点となる町の活性化――松岡町長に聞く――(第2回)
- 2018/3/23
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- 公立日本語学校, 地方創生, 東川町, 松岡市郎
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町立日本語学校が起点となる町の活性化――松岡町長に聞く――(第2回)
[町立東川日本語学校の校舎入り口にかかる看板]
全国初の公立日本語学校を有する北海道東川町を訪れ、松岡市郎町長にその取り組みを聞いた。
――2015年10月に全国初の公立日本語学校を設立されていますが、町の取り組みについて教えてください。
東川町は国際化に力を入れています。1985年より写真の町として条例を作ってきているが、これに加えて、世界の中の東川として町をつくることを目標としています。人口が減少し、過疎の町であった時代、町内にある専門学校にはピーク時で600名を超える生徒が在籍し、(学生たちが町にいてくれたおかげで)過疎化を克服してきました。とはいっても少子化の影響は避けられず、現在は4分の1の150名程度に減少してしまい、町が用意した学生寮にも空き室が目立ってきていました。このままだと田舎の町の人口減少に歯止めをかけた専門学校が消えることになるという危機感を持ちました。
「学校を守ることは、町を守ることである」と考えを巡らせて、道内や国内の生徒獲得競争ではなく、今後付き合いが深まり、ポテンシャルの高いアジアからの外国人留学生を増やし、定住していただくことに町の戦略をシフトしてきました。
日本語学校設立に先立って2009年からは、町で短期の日本語研修を提供し、日本語研修を通じて日本文化を伝え、人を育てること、町で良い体験をして気持ちよく帰ってもらうというローテーションを組みました。これがとても好評です。
きっかけがありました。台湾から町に滞在していた方が、台湾人は写真も好きだし、日本語も勉強している。町に来たい人もいるはずと教えてくれた。また、韓国から町の専門学校に留学していた方からは、韓国の都市と東川町が若者の交流をするのはどうかと提案してくれた。この提案にすぐに飛びつき担当者を派遣しました。
この事業に兆しが見え、短期の研修ではなく年間を通じて町を体験してもらうことはできないかと、町立日本語学校の設立を意思決定しました。そして2015年10月には日本初の公立日本語学校を開校することになりました。
[松岡市郎・北海道東川町長。2003年より現職]
――日本語学校の経営にはコストがかかると思いますが、どのようなモデルなのでしょうか。また、納税者である住民は納得されているのでしょうか。
町に住む外国人は食事もするし、旅行にもお金を使う。でも観光に来る外国人は町ではなかなかお金を使わない。
(日本語学校を運営すると)留学生から授業料を得るので、町の収入が増える。留学生が住人となって町で消費することになり、町の経済発展につながり、同時に町で働く若者の雇用も創出している。日本語学校の校舎内に併設されている食堂で提供するランチは、町で採れた食材を活用し、経済の活力を生んでいる。
外国人が住人となれば国からの交付税も増加する。国勢調査に基づく人口に応じて国から地方交付税が交付されており、これには留学生も含まれます。例えば、留学生280名が人口にカウントされればその人数分の交付税が増える。町はその交付税を公共サービスに還元している。具体的に言えば、高齢者タクシーのチケット配布や、保育サービスの充実、公共施設への投資、道路の補修、その他社会福祉に分配している。
町の職員には、留学生は出身の国にお金を持って帰るのではない。町で消費するから恩恵をもたらすという考えを浸透させてきた。ただ、住人からは奨学金制度による学費や寮費の補助など、外国人にだけ手厚い制度を設けているとの批判が出ている。住人への告知が不十分であったので、これからはしっかりと浸透させていきたい。
――どのような留学生を町は応援しているのでしょうか。
短期研修の場合は、町を知ってもらうことで、つながりを大切にしている。長期の留学生となると、やはり定住していただく人材を育てたい。国の一億総活躍では、介護離職ゼロを目指すとしているが、とにかく地方には人材がいない。技能実習制度を活用して介護人材を連れてくる動きがあるが、日本語力は不足している。日本語のコミュニケーション力が高い人材を育てないといけない。
――留学生の就職は都市部、特に東京近郊が多いが、地方ではどうか。
日本で働きたいという学生は多い。また、地元就職を希望する学生も多い。北海道では隣の市の旭川市が2番目の都市。ベトナムの交流協会が新たにできている。また、地元企業と留学生をマッチングする説明会も開催している。卒業生で地元企業に就職しているものもいる。
――地域住民と留学生はどのような関係性をつくっていますか。
生活者としてみると、留学生はいかに地元と触れ合うかが大切。生きた日本語を身につけ、日本を肌で知ってもらうことになる。住人も外国人との暮らしを受け入れるとよい。もとが開拓民であるから外からの人に優しいし、相手がわかれば外国人と日本語でコミュニケーションができるようになる。日本語学校の授業のあと、午後の時間は、地域の囲碁や俳句などの文化団体の活動に参加してもらって、地域住民とつながりをつくっている。ただ、若者が少ないので、留学生と同年代の日本人との交流はなかなかうまくいかない。
――町に定住する外国人は増えていますか。
ベトナムやウズベキスタン等の国際交流員を町の職員として配置して、外国人子弟の支援をしている。教育施設は充実させてきているので、隣の旭川市からわざわざ外国人が住みに来ている。また、外国人だけでなく日本人も住みに来ている。教育に力を入れていこうとしているが、地元の高校からは国立大学に進学することはほとんどないが、今年は地元で育った外国人のお子さんが国立大学への合格を目指している。外国人住民から日本人が刺激を受けてくれたらよい。
松岡町長のインタビューからは、日本語学校を起点に活性化しようとする姿勢が見て取れた。町立日本語学校の取り組みは、生活者としての外国人は、地域経済を活性化させるということを前提に、地方交付税を上手に使い、町の経済が循環するモデルを形成しているように思えた。(聞き手:阿久津大輔・にほんごぷらっと編集長)
<第3回:町立の日本語学校モデルとは?――三宅良昌校長が描く町の将来―― につづく>
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特集:日本語教育と地方創生
人口減少が急速に進む地方都市において、日本語学校を地域の活性化に結びつけている町があるのをご存じだろうか。北海道旭川空港から東に車で15分の東川町だ。2015年10月、日本初の公立日本語学校を開校し、町をあげて外国人留学生を歓迎している。「偽装留学生」や「デカセギ留学生」などと揶揄されることが多い昨今、地方の公設の日本語学校がどのように留学生と付き合っているのか。雪深い町立東川日本語学校を訪ね、その実情を通して、日本語教育と地方創生の可能性について考えてみた。