外国人集住都市会議「おおた2018」――「開かれた共生社会」を全国に

外国人集住都市会議「おおた2018」――「開かれた共生社会」を全国に

日系ブラジル人など外国人が多く住む15の市や町でつくる外国人集住都市会議。その首長会議「おおた2018」が1月29日、群馬県太田市で開催された。昨年の臨時国会で入管法が改正され、政府の「外国人材受け入れ・共生のための総合的対応策」が策定されて初の首長会議だ。議員立法で日本語教育推進法制定への動きもあり、会議を締めくくる「おおた宣言」は「特定地域の課題とされた外国人労働者の受け入れや共生社会の実現は、今後、日本全体が課題として議論・共有して取り組んでいく必要がある」と述べ、全国に多文化共生の議論を呼びかけた。

外国人集住都市会議が発足したのは2001年5月。外国人住民が増えることで「地域で顕在化しつつある問題の解決に積極的に取り組んでいく」のが目的だった。浜松市長の呼びかけで当初は21の市と町が集まった。誤解を恐れずに言えば、行政の「お荷物」としての外国人問題にどう対処すべきか、そんな問題意識で出発したように見えた。以後、様々な課題を洗い出し、その解決に向けて連携し、国への提言や要望を発信してきた。

首長会議には総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、内閣府などのおおむね課長クラス以上の幹部が出席してきた。公開の場で首長側と政府の幹部が意見を直接ぶつけ合う建設的な催しだ。地方が抱える課題は、「言葉の壁」、ゴミ出しなど生活のルール、外国人児童生徒の教育など切実なものばかり。行政には住民の苦情が様々な寄せられてきた。政府側にも問題意識を共有する熱い想いの幹部が何人もいた。その結果、「首長の声」が政府を動かしてきたのも事実だ。

2006年には総務省が地方自治体のための外国人受け入れの指針「多文化共生プラン」を作成し、政府の関係省庁の連絡会議が「『生活者としての外国人』のための総合的対応策」を策定した。定住を見越し「生活者としての外国人」という概念を政府が打ち出した意味は大きい。2012年には外国人の住民登録が始まり、外国人が「市民」や「町民」として住民基本台帳に掲載された。こうした動きをマスメディアが大きく取り上げることはなかったが、日本は「多文化共生の道」を着実に歩んできた。それを引っぱってきたのが外国人集住都市会議だ。

外国人集住都市会議は規約を改正し、「外国人住民の持つ多様性を都市の活力として、外国人住民との共生を確立することを目的する」との考えを示した。時代の流れを的確に見据えたものだ。実際、日系ブラジル人の第二世代などがグローバル人材として社会で活躍するケースが増えている。都市の活力を支えているのが、外国人の労働力であることは否定できない事実だ。

今回の「おおた2018」には、太田市長をはじめ浜松市、群馬県大泉町、愛知県豊橋市、三重県四日市市の首長、政府側からは法務省、文科省、文化庁、厚生労働者省、総務省の担当局長、課長らが出席。日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩氏の基調講演のあと、「新たな外国人材の受け入れについて」と「外国人住民が多様性を活かし活躍できる環境整備について~日本語教育を中心として~」の二つのセッションで「地方VS政府」の意見の交換が行われた。

セッションでは政府側から佐々木聖子法務省入国管理局長が出席したことが注目を集めた。佐々木氏は一連の入管法改正や総合的対応策を取りまとめの中心人物で、4月に発足する出入国在留管理庁を主導するはずだ。佐々木氏はセッションで新たな在留資格の「特定技能」の創設に関連して「外国人材の支援」を強調した。外国人の「管理」が仕事の入管行政からみれば、「支援」というミッションに向かい合うことは意識の切り替えが必要になるはずだ。役所の側も改革をポリシーにする。佐々木氏はそう考えているようだ。

とは言っても、「生活者としての外国人」の支援の実務の大半は地方自治体が担う。政府の総合的対応策に盛りこまれている施策はほとんどが後方支援である。地方自治体が求めるのは、新たな財政支援だ。政府は126の施策に224億円(後日211億円に訂正)の予算を組んだと発表しているが、多くが従来の施策の積み上げたもの。実のある外国人政策を進めるのは新たな財源が必要である。いずれ外国人雇用税のような新たな税制措置を検討する時が来るだろう。

セッションでは5人の首長がそれぞれの市や町の「多文化行政」の取り組みを紹介した。外国人の人口比率が約18%と全国一の大泉町以外の自治体も外国人比率は全国平均の2倍を超えている。日本語教育や外国人児童の学校教育、外国人学校、医療福祉などの社会統合政策の取り組みなどは、当然、他の自治体より数段進んでいる。外国人集住都市会議の参加都市からすれば、「ようやく政府がことの重要性に気づいてくれたか」という受け止めではないか。

浜松市の場合は多文化共生の国際的なイベントを開催したほか、2017年に欧州評議会が主導する「インターカルチュラル・シティ・ネットワーク」に加入した。欧州で最も進んだ移民政策に取り組む都市のネットワークだ。浜松市は外国人児童の不就学をゼロにしようと市が一丸となって取り組んでいる。太田市はブラジルにまで教師を派遣して研修をさせている。豊橋市は日本語教育だけでなく英語教育の充実により、「多言語人材」の育成に言及した。大泉町は歯をくいしばって自主財源をねん出し、多言語化などの取り組みをしている。

こうした取り組みをみると、政府が鳴り物入りで打ち出した総合的対応策がかすんでしまう。外国人集住都市会議の加盟都市は、まさに「共生の先進都市」なのだ。「外国人労働者の受け入れが大都市圏に集中しないよう措置をすべきだ」と声があるが、果たしてそうか。外国人集住都市会議の市や町はほとんどが中小の規模の都市だ。大都市であっても魅力のない都市からは外国人は逃げていく。外国人観光客が、「おもてなし」の行き届いた魅力的な地方の町にも足を運ぶようになってきたことにも注目したい。

セッションでコーディネーターを務めた山脇啓造明治大学教授は日本人の側にも「やさしい日本語」を広めることを通じて、日本人と外国人がより円滑なコミュニケーションがとれる社会を築くよう提案した。また、「外国人集住都市会議の首長の知見を、これから外国人を受け入れる自治体に広げていくことが重要だ」と総括した。外国人集住都市が人口減少時代の地方行政をリードするのではないか。「おおた2018」は、そんなことを予感させる会議だった。

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
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日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
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29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
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教室内談話: 学習者間相互交流とL... @ オンライン(ZOOM)
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※この講座の内容は2022年実施分に準じます。 教室内談話: 学習者間相互交流とL2学習を考える 学習者同士が互いに話し合う活動は、近年の外国語(L2) 教室には不可欠です。また、学習者同士 が学習言語で対話する活動の意義やL2 習得における効果は、外国語教育において興味深いトピッ クの1 つです。本講義では第二言語習得理論を適宜参照しながら、外国語教室で行われる学習者同 士の対話の意義や先行研究で明らかになっている効能、より効果的な実践法や課題と展望について 考察を深めます。 【全4回】 日程: 第1回:2024年11月22日(金)19:00-20:30 第2回:2024年11月29日(金)19:00-20:30 第3回:2024年12月6日(金)19:00-20:30 第4回:2024年12月13日(金)19:00-20:30 内容: 第1回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語習得理論 第2回:「学習者同士のL2 対話」と第二言語学習 第3回:「学習者同士のL2 対話」と教師 第4回:「学習者同士のL2 対話」とこれからのL2 指導 【受講料】9,000円(税込)※1講座のみお申込み:2,500 円(税込)
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ビジネス日本語研究会 第38回 研究... @ オンライン(ZOOM)
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テーマ:ビジネス日本語における「チームワーク」を考える 現在、外国人材を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。日本で働く外国人労働者の増加、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度の創設などにより、インクルーシブな職場づくりの重要性が増しています。そこで、第38回ビジネス日本語研究会では、「チームワーク」をテーマとします。経済産業省が提唱した「社会人基礎力」のひとつである「チームで働く力」を、インクルーシブな職場ではどのように考えるのか、日本企業で採用に関わる方々のお話も伺いながら、「チームワーク」について、様々な視点から考えます。当日は多くの方にご参加いただき、活発な議論、意見交換が行われることを期待しています。 また、併せて研究発表を実施いたします。

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