海外の日本語教師の有志が日本語教育推進の基本方針案に関する要望書を日本語議連に送付
- 2020/4/13
- ぷらっとニュース
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海外の日本語教師の有志が日本語教育推進の基本方針案に関する要望書を日本語議連に送付
海外で継承日本語教育に携わる教師の有志が日本語教育推進議員連盟に要望書を送付しました。「にほんごぷらっと」にも要望書が送られてきましたので、以下、全文を紹介させていただきます。
要望書によると、海外に永住予定の邦人は約50万人にのぼり、学齢期の邦人児童生徒(外国籍取得者を含む)は約30万人いると推測されます。このうち相当数の子供が日本語教育の支援を必要とする、としています。しかし、先に日本語教育推進会議がまとめた基本方針案では在外邦人の支援策に関して「国際交流基金による実態調査を実施する」という項目以外には見るべき支援策が記されていないと指摘。要望書では 「年少者を対象にする視点にたった施策」など7点を要望しています。
日本語教育推進の基本方針(案)に関する海外教師からの要望
日本語教育推進議員連盟の皆様
私どもは海外で日本語教育、継承語教育、バイリンガル教育に携わる教師、研究者です。皆様のご尽力で成立した「日本語教育推進法」には大きな意味があり、深く感謝しております。とりわけ、その第19条に「海外に移住した邦人の子孫等」と明記されたことは、議員各位のご支援、ご理解の賜物であり、重ねてお礼申し上げます。
さて、このたび日本語教育推進会議によって本法律の実施に関する基本方針案が纏められ、公開されました。その基本方針には、国内における日本語教育及び海外における外国人のための日本語教育については多くの具体策が示される一方で、第19条関連の日本にルーツを持って海外に永住していく戦後渡航者の子どもたちの母語・母文化の継承教育については、「国際交流基金による実態調査を実施する」という項目以外には、見るべき支援策が書かれておりません。この背景には、海外在住者が関係者会議等には一切招聘されていなかったという現実もあると思われます。
現在、海外に永住予定の邦人はおよそ50万人にのぼり、在外の学齢期の邦人児童生徒は30万人とも言われます。この中から帰国予定者を差し引き、在外公館に届出のない者や外国籍の取得者を加えると、現在も日本語が話される海外の家庭で育つ子どもや若者の数は20万人にのぼるとも考えられます。これは外国にルーツを持ち、国内で日本語教育・母語教育の支援を必要とする児童生徒26万人にも匹敵する数字であり、母語継承の教育は、まさに日本の国内外に共通する課題です。
それにも関わらず、海外の母語・母文化継承教育は、その多くが心ある現地の親や教師の維持する中小規模の教育機関の自助努力に任されており、日本政府の支援の対象は、戦前に渡航した日系人の後継世代や、JICAの支援を受けてきた一部の戦後渡航者に限られてきました。海外に永住していく戦後渡航者の家族が増加の一途をたどる現在、各地の教育現場は、子どもたちの母語教育に政府支援を求める親や教師の声で溢れています。
新型コロナウイルスの感染が地球規模で広がる現在、オンラインによる各地の連携が深まり、多言語多文化環境で育つ子どものグローバル人材としての役割はいっそう増しています。そうした中で、日本政府が在外の子どもたちの母語教育の支援に立ち上がることは、本人の学力形成・人格形成に役立つのみならず、日本の真の国益にかなうことだと私どもは確信しております。
日本語教育推進法には「すべての学習者に必要な支援を」という基本理念があります。これに「すべての子どもに親の母語を伝える」という理念を加えて、実効ある政府支援をお願いしたく、海外からの要望を下記にお伝えする次第です。
政府基本方針(案)に対する海外の教師からの要望
- 母語継承の教育は、海外・国内を問わず、年少者が対象であり、家庭における幼児教育から高校年齢における教育機関での教育まで、持続した政策支援が必要である。この点に配慮し、年少者を対象にする視点に立った施策を求める。(第1章4項関連)
- 所轄の政府機関については、従来の外務省(国際交流基金=外国人対象の日本語教育)、文科省(海外子女教育振興財団=在留邦人子女の国語教育)の枠を超え、一元化された仕組のもとで、継承語学習者への持続可能な支援を求める。(第1章4項関連)
- 現存の継承語教育機関(幼児教室・週末の学校など)は、その多くが運営基盤が弱体な上に、教育課程の編成・指導法の開発から教師の確保と養成までの一切が現場の手に委ねられている。このような教育機関への政府支援をはかり、相互のネットワーク化を促進し、オンライン等を活用して、必要な情報の伝達・共有をはかる。(第2章(2)イ関連)
- 多言語環境の年少者の母語支援には現地の言語・教育などに配慮した教育課程・指導法・評価法の開発が必要であり、現地の教育を熟知した教師の養成が必要とされる。現地と手を携えた開発への支援を求める。(第2章4項関連)
- 政府認可の補習授業校は帰国を予定する在留邦人子女のための教育機関だが、現在は多くの現地永住予定の児童生徒が通学している。この帰国・永住予定の児童生徒の間に現存する政府支援の落差をなくし、補習校における国際学級や継承語クラスなどを含めて、国籍や帰国予定の有無にかかわらず、政府の支援を受けられるよう求める。教科書の無償配布については、希望する当該年齢の学習者全てを対象とする。(第2章(2)イ関連)
- 多年にわたり母語継承教育を受けた成人・大学生・高校生は、現地語も日本語も解する真のグローバル人材である。このような若者に対し、現存の国内留学や研修機会への応募の際の国籍規定を撤廃し、日本国籍を有する者でも応募を可能にすることを求める。
- 在外にあって次世代の母語継承教育にあたる現場の声を政策に反映させるため、日本語教育推進関係者会議のような国内の会議に海外からの代表者を、ネットによる参加も含め、検討を求める。(第3章1項関連)
以上の要望につき、ご高配をいただきますよう、切にお願い申し上げます。
2020年4月
海外継承日本語教育に携わる有志・応援する有志(50音順)
青木恵子(クイーンズ大学准教授・カナダ日本語教育振興会会長)
桶谷仁美(イースタンミシガン大学教授・バイリンガルマルチリンガル子どもネット理事)
小貫大輔(東海大学教養学部国際学科教授)
カルダー淑子(ジョンズホプキンス大学国際問題高等大学院講師・母語継承語バイリンガル教育研究学会海外継承日本語部会代表)
櫻井恵子(仁荷大学校元教授・韓国継承日本語教育研究会代表)
札谷新吾(イリノイ州デュペイジ大学教授・全米日本語教育学会副会長)
田内さおり(ウィティア大学講師・南カリフォルニア日本語教師会会長)
ダグラス昌子(カリフォルニア州立大学ロングビーチ校名誉教授・全米日本語教育学会継承語特別部会会長・全米コミュニティ継承語学校連盟役員)
中島和子(トロント大学名誉教授・バイリンガルマルチリンガル子どもネット代表)
根元佐和子 (パリ南日本語補習校教師・ヨーロッパ日本語教師会役員)
久本早智枝(未来日本語学院代表・加州日本語学園協会会長)
フックス清水美千代(バーゼル日本語学校名誉教諭・ヨーロッパ日本語教師会継承語グループ代表・スイス継承日本語教育機 関連絡会主宰)
ベイリー氏江智子(ブリティシュ・コロンビア州日本語教育振興会会長)
三輪聖(ハンブルク大学日本学科専任講師・ドイツ語圏大学日本語教育研究会副会長・ドイツ 発複言語キッズ「チーム・もっとつなぐ」メンバー)
山口希(英国マンチェスター大学日本語科日本語主任講師・英国日本語教育学会会長)
湯川笑子(立命館大学特別任命教授・母語継承語バイリンガル教育学会会長)